具体の具、実体の実

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【ポケカ・MTG】サイクルいろいろ

ポケカMTGの「サイクル」について雑多に書く回です。サイクルとはなんぞや、みたいな方にも楽しめるよう一応の配慮をしました。

 

 

ボルトルネランドのメガ・メガサイクル

それは運命的な出会いでした。

https://www.pokemoncenter.com/product/290-80898/pokemon-tcg-tornadus-thundurus-and-landorus-cards-with-2-booster-packs-and-coin

輸入品を扱うカードショップにてこの商品を見かけ、

 

「なんでこいつらを顔役にしてセット商品を作ろうと思った!?」

「なんでコインがカメックスなの!?」

「LEGEND以前のキラ仕様じゃん、ちょっと欲しいな……」

「こいつらメガ・メガサイクルだったの!?」

 

と様々な思いが立て続けに去来しました。

 

サイクルとは同一のコンセプトの元製作された、共通点を持つ複数枚のカードを呼ぶときに使われる言葉です。たとえば「強化拡張パック Pokémon GO」ならカントー御三家がそれぞれ収録されており、最終進化だけ抜き出すと「特性と(少なくとも見た目では)4エネ技一つを持つカントー御三家最終進化のレアのサイクル」となります。「特性と技一つを持つかがやくカントー御三家最終進化のサイクル」もありますね。

メガサイクルという言葉もあり、こちらは複数のセットにまたがったサイクルを指します。剣盾一年目の各タイプの特殊エネルギー、剣盾二年目の各タイプ対策グローブなんかがメガサイクルのいい例ですね。

そしてメガ・メガサイクルは構成カードの初登場セットが全て異なるサイクルです。

なるほど並べてみればどれもHP120の逃げエネが1、1エネ小打点メリット付き技と3エネ強制効果付き技を持つレアであり、まさしくメガ・メガサイクルと呼ばれるだけの要件を満たしているといえるでしょう。似たスペックのたねポケモンが毎弾1枚~のペースで無限に刷られるせいで気づくのがほぼ不可能という点を除けば……。

 

このおっさんたち(今ならラブトロス含めて「季節の神」で括れるけどこの3体を抜き出すと途端に呼び名がなくなって困りますね)は初出の時点で1エネの嬉しい技+3エネ強制効果付き技で統一されたメガサイクル*1*2を形成しています。よく「シンプルな非ルールたねのインフレがBWのレシラム・ゼクロムから進んでいない」と言われますが、実態としては「旧ボルトルネランドのポジションがインフレして旧レシゼクと打点が並ぶまでになったが、旧レシゼクのポジションが一切インフレしなかった結果、両者が同一視されている」の方がより適切かもしれません。

技の性質は上の3枚に、打点は下の3枚に近いと言えます(すっとぼけ)。こうして見ると現代の非ルール薄味たねポケモンってBWレシゼクから微妙に、本当に微妙にインフレしてるんですね。


「テーロス還魂記」エルダー・タイタンサイクル

ギリシャ神話をモチーフとした次元、テーロス。私が常日頃から「実質レジギガス」と主張してやまない《自然の怒りのタイタン、ウーロ》と《死の飢えのタイタン、クロクサ》は自然災害と死への怖れが形を成した、古来よりテーロスの人々を脅かすエルダー・タイタンです。

普通に唱えると「戦場に出るか攻撃するたび」の能力を誘発させたのち自壊し、やがて死者がテーロスの死の国(そういうのがある)から現世に舞い戻ることを表す能力「脱出」により墓地から唱えられ、過去に存在した巨人のサイクル「タイタン・サイクル」の流れをくみホイホイ誘発する強力な能力と6/6という十分すぎるサイズによりゲームを終わらせます。

自壊能力は背景ストーリーにおいてエルダー・タイタンが神々との戦いに敗れ、地の底に封じられたことを反映したテキストであり、この背景ストーリーの元ネタはギリシャ神話においてティーターン神族がオリュンポスの神々に敗れたティタノマキアと思われます。

レジギガスのスロースタートもまた「巨人がアルセウスに倒されたエピソード(真偽不明)」を反映した[要出典]特性であり、そのエピソードの元ネタはティタノマキアまたはギガントマキアであるっぽい(もちろん詳細不明)……つまりウーロやクロクサは「巨人がオリュンポスの神々に倒されたことを元にした設定を元ネタとした緩慢なデメリット能力」を持つ巨人という点で実質レジギガスといえます。なんならデメリット能力を踏み倒す手段も両方あります(デメリット能力は踏み倒されるものであるため)。

レジギガスにおける「巨人への信仰がオリュンポスの神々への信仰により塗りつぶされていったエピソードを元にした設定」の比重の話は置いておきましょう)

 

ウーロとクロクサは2枚でサイクルを形成しており、それぞれ戦場に出るか攻撃するたびに誘発する能力が「ライフ回復とドローと土地加速」「土地以外を捨てないとライフルーズするハンデス」で対になっています。イメージとしては「巨体から肥沃な大地が生じる(ユミルっぽさありますね(レジギガスもユミルっぽさありますね))」「貢ぎ物、それが不十分なら命を求める」といった感じでしょうか。美しいデザインであり、その双方がトーナメントシーンで活躍したことは喜ばしいこと…なのですが、ウーロの方はかなりオーバーパワーであり、多数のフォーマットにおいて禁止カードに指定されてしまいました。クロクサとサイクルを成立させるためにウーロが強くなりすぎてしまったのだ、という説がまことしやかに囁かれるほど、サイクルの美しさを追求した結果カードパワーの均等さが犠牲になるのはよくあることです。結局のところ異なる色には異なるカードプールがあり、異なるリソースには異なる価値があります。色が異なるだけで同じ効果のカードの強さは乱高下しますし、3点のライフと3点のマナと3枚のカードはたまたま同じ数字を冠しているだけであって別物です。そのことを分かっていながら「《暴力的な根本原理》がパーマネント5つ破壊だったら美しいのになあ」とうっかり感じてしまう私もまた、サイクルの概念に幻惑されてやっちまったカードを見逃す側の人間なのでしょう。

キッツい色拘束と豪快な効果を持つ、アラーラの根本原理サイクル。12年後に楔三色版のサイクルが登場するまで、《暴力的な根本原理》だけが「5」という数字を効果に含んでおらず、やや浮いていました。が、別にそれでいいんですよね(5という数字で効果を統一することはサイクルのバランスを適正にすることと一切関係がないため)。

サイクルを成立させようとする動きがデザインを歪めた例の一つ……と私が思っていたものが「金の空、銀の海」ジョウト御三家サイクル、特にメガニウムです。

「金の空、銀の海」ジョウト御三家サイクル

メガニウムの印象的な技といえば皆さんは何を思い浮かべるのでしょうか。『のしかかり』?『はっぱカッター』?それとも『いやしのはどう』でしょうか。他には?そう、『いたみのいちげき』ですね。

メガニウムのイメージにそぐわない急な暴力性ですが、サイクルを並べると理解を試みることができます。ジョウト地方をフィーチャーしたこのパックにおいて、ジョウト御三家の最終進化(進化前はスターターのみの収録でした)は10ダメージぶん何かをするポケボディーを持つという共通点のあるサイクルを形成しています。バクフーンが炎でお互いを炙り、オーダイルが威嚇(PCGシリーズですから、すでに本編では「いかく」含む特性が登場済みでした)でダメージを減少するとするなら、メガニウムがすることといえば「癒やし」でしょう。ポケモンチェックでお互いを回復する効果を能動的に活かせるようデザインした結果が『いたみのいちげき』の突然の覚悟なのでしょう。HPが満タンであればダメカン1個はノーリスクで載せられますし、多少無理してでも相手を倒してしまえば相手を回復するデメリットは帳消しにできます。いやこれ三者のポケボディーの中で一番イメージに合ってるのメガニウムだし、サイクルと『いたみのいちげき』の変さはむしろ無関係では……?サイクルに合わせようとする歪みからとかでは……ない……?

怖いですね。

 

まぼろしの森」「ホロンの研究塔」「さいはての攻防」ひかるつのメガサイクル

まぼろしの森」でカイロス・アブソルが登場したのち「ホロンの研究塔」でエアームドが追加、「さいはての攻防」でヘラクロスが登場したメガサイクル。

HP70で逃げエネが1、自分の場に自身しかポケモンがいないなら(「ベンチポケモンがいないなら」ではないのがダブルバトルに配慮したテキストですね)相手のたねポケモンのワザを封じるポケボディー『ひかるつの』、無色1エネの手札にカードを加えるワザ、色1エネ1無色1エネの非バニラなダメージワザを持つという共通点があります。

……もう何から何まで意味不明ですごいメガサイクルです。アブソルとエアームドが特殊なタイプで対・カイロスヘラクロスが対、という構成に見えますが、カイロスエアームドがワザ名を共有していたり、ヘラクロスだけデルタ種だったりと絶妙に全体像をとらえにくいです。そしてカイロスの『うしろなげ』が衝撃的に弱い!2エネ30反動20は、いくら『ひかるつの』を有効活用するための誘導とはいえ無法な弱さです。

また、このサイクルが増えることで不毛なミラーの発生率が上がるのもだいぶ気になります。お互いの場に『ひかるつの』持ちだけがバトル場に1体ずついる状況では、先にベンチにポケモンを展開した方が一方的にワザを使われることになります。この前「ポケカでは基本的にミラーで膠着状態が発生しないよう配慮されているから、Pokémon GOのヤドランがサイド2-2でお互い何もできなくなるのはヤドランらしさを表現した意図的なものだよね〜」みたいな話したばっかなんだが!?

味方0で仁王立ちして睨み合うアブソルやカイロスヘラクロスは中々に格好いいものではありますが(エアームド…?)、本当にこのサイクルはなぜ生まれ、なぜ増えたんでしょうか……?

 

「ストリクスヘイヴン:魔法学院」2色神話レアサイクル(?)

「ストリクスヘイヴン:魔法学院」は魔法の大学を舞台としたセットであり、眺めていて楽しいカードの多い私のお気に入りです。旅や一時的に姿を消すことの表現として使われてきた明滅*3を長期休暇として再解釈し、カウンターの追加により「休み明けに雰囲気が変わってる奴がいる」というあるあるすら完璧に再現してのけた《学期の終わり》。手札という記憶を思い出せないところまで追放してしまう、試験中のど忘れの怖さが伝わる《真っ白》。「安い代替コストでも唱えられるが、そうすると相手にも利益が生じてしまうサイクル」だと紹介されてもほーんって感じだったけれど、MTGAで代替コストのことが「生徒コスト」と表示されたことによりそういうことだったのか!と電撃が走った熟達サイクル……。

多元宇宙随一の魔法学院「ストリクスヘイヴン」はそれぞれ異なる分野の学問を追求する5つの大学から成り立ち、これがゲームプレイ上では対抗色5種に振り分けられた5種の戦略として表現されています。それぞれの大学に関係するキャラクターや呪文のカードには透かしが入り、分かりやすくなっています。リミテッドのためにもそれぞれの色の組み合わせについて枚数・パワーバランスが等しいのが理想で、またそれぞれの大学の特色を際立たせるためにも、サイクルは必然的に多くなります。 

パッケージにもなっている伝説の魔道生徒サイクルはいずれもアンコモンで、リミテッドでもデッキを組む指針となってくれます。いずれも出番の多少こそあれストーリーが用意されており、名実ともにセットを代表する存在です。

素早い弁論術による鼓舞と侮辱を表す強化と除去を交えた前のめりなアグロ、芸術として組み上げられる重量呪文とそれをさらに活かす呪文コピー、生と死を弄ぶ生物学のライフゲインと生け贄、歴史から学ぶスピリットと墓地利用、数魔術により土地の数をアドバンテージに変換するランプ、とそれぞれの大学のコンセプトと戦術にぴったり合致しています。アンコモンの伝説のクリーチャーは入手が容易で頼もしい一方で格が何となく低く感じがちですが、親しみを持たせる手段として、また「今はまだ一介の生徒である」という表現としてとても優れていると感じます。レアリティの面白い活かし方ですね。

学部長のサイクルもあります。

言葉を操りより良くすべきは社会自己か、芸術の中心は理性情熱か、生命の本質はか、人々を動かすのは構造か、数学を生むのは自然思考か、の色の対立が理念と扱う魔術の性質の違いとして背景設定に落とし込まれており、それぞれの対立の象徴が、各大学ごとに文字通り表裏一体な2人の学部長がモードを持つ両面カード(MDFC)として登場する学部長サイクルです。

伝説のクリーチャーはシンボリックで重要な存在ですが、そもそも同名の伝説のクリーチャーが1体しか場に出れないという制限は面白さに貢献するものではなく、リミテッドならともかく、同名カードの複数積みが当然な構築戦でせっかく手札に来たカードが使えないのはストレスですらあります。そこで一方の面が場に出ているならもう一方の面を唱えればいいというのは、どうしてもテキストが長くなってしまい覚えづらいという欠点を除けば、実に合理的な解決法です。問題はこの学部長サイクルがどれも構築で全然使われなかったことなのですが……(ダメじゃん!)(カルドハイムの伝説MDFCはそこそこ使われてるから……)。またそれぞれの大学の戦術との相性も、すごく良いとは言えません。あくまで独立したカードといった雰囲気です。

とはいえ表裏で一定のシナジーを生むデザインはそれなりに面白く、フレーバーもそれなりに芳醇です。新入生を優しく導くシャイルの裏面であるエムブローズなんて、+1/+1カウンターを載せて成長させた後に2点ダメージという「スパルタ教育の教師」としてこの上ない表現だと思うんですよね。ナゲツケサルオドリドリに比肩するいちげきのコーチ枠として必要だったのはカイロスではなく傷つけながら味方を育てるエムブローズだったのでは?いやまあヘルガーがいるか……。

guandmi.hatenablog.jp

 

アンコモンの生徒、レアの学部長。神話レアを飾るのは各大学の創始者、創始ドラゴンのサイクルです。

大学の名称が創始ドラゴンの名前から取られているだけのことはある格好良さです。ドラゴンと宝物のシナジーがうまいこと噛み合った《ガラゼス・プリズマリ》と豪快な踏み倒し能力を持つ《ヴェロマカス ・ロアホールド》以外トーナメントシーンで見ることはありませんが、神話レアに相応しい「格」の高さを感じます。それはそれとして歴史学の大学の創設者が踏み倒しって大丈夫なんでしょうか。ロアホールド関係のインスタント・ソーサリーは絶妙に重いものが多いので相性は悪くないのですが、過程をすっ飛ばして結果だけ求めながら《時間のねじれ》を連打して時間をめちゃくちゃにする創始者を見てロアホールド大学関係者は何を思ったのでしょうか。

 

創始ドラゴンサイクル、MDFCの神話レアサイクルとプレインズウォーカーである《謎の賢者、カズミナ》を除くと、各大学に対応した2色に神話レアが1枚ずつ存在することが分かります。MTGWiki等ではサイクルとして扱われていませんが、極めて象徴的であり豪快という点が共通するカードたちなので、この記事の締めとして一枚ずつ紹介したいと思います。

シルバークイルの2色神話レアサイクル(仮称)は大量の墨獣トークン生成です。墨獣とは各大学に1種ずつ存在し、その大学に関係するカードで扱われる「マスコット」のうち、シルバークイルに対応したものです。もともと墨獣の2/1飛行という性能はシルバークイルのアグロ性を反映したものですが、タップ状態での生成であり次ターンの相手の攻撃を防げないという点で非常に攻撃的です。タップ状態で戦場に出る効果はゾンビ、あるいは古のデメリット付きファッティがよく持っているもので、緩慢な動きの表現として使われます。X=6以上でのクリーチャーでも土地でもないパーマネントを全破壊する効果は、強化と除去によりクリーチャーで殴りぬくシルバークイルのコンセプトに沿っています。同じ白黒でもじわじわとライフを取り立てるオルゾフ組とは対照的ですね。次々と詠唱による素早い呪文を放っていたシルバークイルの魔道士がふと手を止めて、とどめに空を覆う大量の墨獣をゆっくりと呼び出す……そんな光景が目に浮かぶ、いいカードだと思います。それはそれとして構築で使うと返しの《食肉鉤虐殺事件》X=1で全滅して変な笑いが出ます。墨も食べちゃうなんて雑食だなあ。

 

プリズマリは言わずと知れた《マグマ・オパス》。

Magnum Opusをもじった名前だったのに訳せていないことでも有名ですね。しゃーない。2倍《火》+2倍《氷》+《精霊召喚学》に序盤でも腐らない宝物生成効果がくっついています。《氷》のドロー部分は深い意味のないキャントリップであり、出てくるエレメンタルがインスピレーションを与えうる芸術作品であることを加味すると2倍《火》+2倍《氷》のキャントリップ抜き+《精霊召喚学》+自分限定《霊感》と読むのがいいでしょう。

イラストにはゾウの形をしたエレメンタルが描かれており、これがエレメンタルトークンとして火と氷と共に登場するのでしょう。かっこい〜。エレメンタルトークンのサイズは4/4と大きく、これが《精霊の傑作》などでの芸術作品としての表現に役立っています。手早く作られた墨獣や死ぬ前提の実験生物なんかには殴り負けません。

《精霊の傑作》のFT、好きです。イラストと効果の噛み合いも○。

一方でバニラ(トークンなんて大体そんなもんですが)であり、炎と氷を織って作られたかのようなその見た目を反映していないのがやや残念です。利便性上赤マナだけ、青マナだけでも出せるようにはしておきたい以上、炎っぽい赤の能力や、氷っぽい青の能力を持たせるのは難しい。どうすればいいか?赤青の呪文で炎と氷を伴って出させればいいんです。かしこい。

 

ウィザーブルームは《無限性の支配》。

端的にド派手、まさに神話レア。黒緑は墓地利用に秀でた色であり、生物学を中心としたウィザーブルームの研究分野も墓地利用と相性が良さそうですが、ストリクスヘイヴンではこれまでと変化をつけようということでライフゲインと生け贄シナジーに集中し、いつもはガンガン攻めてばかりの白赤が代わりにどっしり構えて墓地を活用しています。が、ライフゲインと生贄シナジーを生かした派手な効果というのが作りづらかったので仕方なく墓地を扱った、ということかもしれません。全部推測ですけど。効果はウィザーブルームらしさに欠けますが、フレーバーとフレーバーテキストはウィザーブルームらしく秀逸……というか、むしろウィザーブルームの生と死の対立のコンセプトを終わらせています。

「スターアーチに足を踏み入れるとすべてが完全に明白となった。生と死は対立ではなく終わりのない道だ。それ自身に巻き付きまた戻り、終わることも始まることもないのだ。」
――生命哲学の教授、ゼイル

「生と死は対立ではなく終わりのない道だ。」そりゃそう過ぎる。そりゃそう過ぎて逆に深みがないまであります。手札と墓地を交換できるまでの域に達してようやく心から理解できると考えると味があるかもしれません。私も皆さんも、生と死が対立ではなく終わりのない道だと知っていても心から実感はしていないでしょうしね。テキストとコンセプトが合致し過ぎてて補足することがないですね。

 

クアンドリクスは《研究体》。

クアンドリクスのマスコットは「フラクタル」で、基本のP/Tが0/0であり、これにゲーム中の様々な数値を反映した個数の+1/+1カウンターを載せ、その個数を加算したり乗算したりすることで数魔術を表現します。参照することで最もエキサイティングになる数値といえば確かにライブラリーの枚数ですから、非常に理にかなっていますね。(ほんとか?「攻撃を通すか《カズールの憤怒》で投げつければ勝てる巨大なトークンを出すこと」が楽しいのであってライブラリーを参照する部分はほとんどフレーバーテキストなのではないか?)

研究を行う中での「現実を観察して推論する」フェイズをMTGに落とし込むのは比較的簡単で、盤面を参照してドローすればいいわけです。《黄金比》がそうです。盤面に多様なクリーチャーを展開できているほど学べるものが増えるわけです。

自然との交感による緑のドローと思索による青のドロー、《調和》と《集中》を合わせた、自然を元に思考を深める、これぞ緑青の学問!といった趣です。逆に「理論を物質世界で実証する」には?フラクタルの本質は生ける数式ですから、知識である手札の枚数をフラクタルのサイズに反映させればいいわけです。もっとも単なる学徒ではなく魔道生徒ゆえ、理論に合わせて現実をねじ曲げているわけですが。

《顕現の賢者》本体がついてくるところに、手札0のトップ勝負で引いても悶絶しないようにという優しさを感じますね。プレイ中の選択肢を増やすデザインでもあります(2/2の「おまけ」をつけることで「手札を増やしてから唱える」一択だったところに「手札を増やさないまま唱える」という選択肢がポップしてくる)。「アサルトゲートのフーパから遠く、れっかのつばさのファイヤーに近い設計思想」と言えばいいでしょうか。

 

さて、知識といえば第一には使える呪文の束である手札ですが、第二にはライブラリーであり、ライブラリーは知識の集積場たる図書館、あるいは精神としての側面を持っています。

《研究体》はニードルディープなる人物の卒業制作とのことですが、これまでの人生の全てをつぎ込んだ最大の作品が参照するものとして、ライブラリーはまさに最高の選択と言えるでしょう。デッキはプレイヤーの最大の作品とも言えますしね。

卒業制作は自分の最大の作品になるとニードルディープは請け合っていた。

これまでサイクル(と私が勝手に思っているもの)のうち4枚を見てきました。

うち2枚がインスタント、2枚がソーサリーですね。今まで言及していませんでしたがストリクスヘイヴンのメカニズム的テーマは対抗色に加えてインスタントとソーサリー…使い切りのスペルであり、スペルの枚数の確保とリミテッドにおける盤面の形成を両立するために各大学にマスコットとしてトークンが割り振られた一面もあるのです。魔法の大学という舞台も、「対抗色」「インスタントとソーサリー」という2つのメカニズムを「対立」「ステレオタイプな『呪文』『魔法』の概念」と読み替え、「いわゆる魔法を対立しながら追究する場所」としてまとめたものと考えられます(実際には魔法学校というコンセプトが先行したトップダウンのデザインであるものの、対抗色テーマ、そしてインスタントやソーサリーテーマがふさわしい舞台を待っていた旨も語られています*4)。

新キーワード能力「魔技」「履修」もインスタントとソーサリーに関わるものであり、そんなセットの神話レアとして各大学に対応するインスタントとソーサリーが存在するのは当然の帰結でしょう。

 

そしてロアホールドの2色神話レアは……《霊鍛冶のホフリ》です。

クリーチャーじゃねえか!!

インスタントとソーサリー微塵も関係ないが!?

芸術的な技と鋭い霊的な感覚を組み合わせ、ホフリは霊の生前の姿を可視化して彼らを住まわせる実用的な彫像を構築できるのです。ロアホールドの歴史上、霊魂の彫像を無から作ることができた者はいません。ホフリは卒業後に教授職を提示され、喜んで受諾しました。

ストリクスヘイヴンの伝説たち|読み物|マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト

とても優秀な教授だそうです。

生徒がアンコモン、学部長がレア、創始者が神話レアと来てなんでただの教授のおっさんが神話レアなんだよ!

 

……というわけで、インスタントやソーサリーの中に教授のおっさんが混ざっているという理由により、これらの5枚がサイクルとして見なされることはありません。私が勝手に存在しないサイクルを見出して異物が紛れ込んでいると騒いでいるだけで、ホフリは異物でもなんでもなく、彼に罪はありません。とはいえストリクスヘイヴン全体を見渡してもサイクルを形成していない伝説のクリーチャーはたった3種類で、ロアホールドに所属しているホフリは非常に浮いています(マビンダは指導相談員、コーディは意思を持った本です)。マビンダもだいぶ変なポジションですが、(どこの次元にでもいる研究肌の青になりがちな学者ではなく)「教え導く者」としての大学教職員というストリクスヘイヴンらしい存在が白であることを示す、とても大事なカードではあると思います。ますますホフリの異質さが際立ってきませんか?

それともPWだからと除外した《謎の賢者、カズミナ》に黒単PWの《オニキス教授》を加えて5色3枚の神話レアサイクル……

… …いやこっちの方がもっと変ですね。ドツボにはまっている実感がすごい。

 

ホフリの能力はスピリットの強化と、死んだ味方をスピリットとして転生させるもの。死亡した元のクリーチャーカードは転生したスピリットに紐付いた形で追放され、そのスピリットが死亡すると墓地に置かれるという変わった挙動をとります。実用上ではロアホールドの墓地利用戦略を邪魔しないデザイン、フレーバー的には同一クリーチャーが複数存在する状況を避ける*5と同時に、ホフリの霊魂を扱う技術の高さを表していると考えられます。死してなおスピリットとして共に戦ってくれた仲間がスピリットとしての死を迎えても、再びロアホールドの面々(《ロアホールドの発掘》など)が墓地を参照することでスピリットトークンとして第三の生を得られる理由は、ホフリが仲間の霊魂を傷つけずにスピリットに加工しているからだ、と(贔屓目に見ながら)捉えています。

墓地のクリーチャーを追放してスピリットを生成。これぞ!って感じの分かりやすい墓地利用を行えるエンチャントです。

「霊鍛冶(Ghostforge)」を名に冠するだけのことはありますが、じゃあ他の神話レアサイクル4枚と並ぶに相応しいかというと、まあ、相応しくはないですね。本人の重さはともかく能力自体は強力で、前例である《光明の繁殖蛾》(こちらも神話レア)と同じく、リミテッドを破壊する種類の強さです。神話レアであることに異論は一切ありませんが、ロアホールドに2色神話レアのインスタント・ソーサリーが存在しない代わりの席に彼が座っているのは、なんというか、こう、ほんと何なんでしょうか。

 

おわりに

この記事は一人でも多くの人に《霊鍛冶のホフリ》の存在の謎さに悩む人生を送らせるために書かれているので特にオチはありません。おっさんのサイクルから始まってサイクルの中のおっさんで終わったね!ワハハ!ということで許してください。

 

……サイクルの定義に「同一のコンセプトの元制作された」という一節を入れる場合、制作過程が明らかでない《霊鍛冶のホフリ》を含めた2色神話レア5枚がサイクルである確証も、サイクルでない確証もありません。内情を詳らかに記事にして公開するMTGですらこうなのですから、いわんやクリーチャーズ井上氏の短い短い話がほぼ唯一の製作過程のヒントなポケカにおいてをや。サイクルの本質はサイクルを見出そうとする我々の中にあるといえますね(そりゃそう過ぎて深みがない)。それはそうと人はサイクルを求める傾向があり、その原因はサイクルという存在が面白く美しいことに尽きるでしょう。サイクルを見出すことは個々のカードをより面白く美しいと捉える機会でもあり、ならまあ、サイクルは見つけたもん勝ちとも言えます。可能性の薄いところにサイクルを見出すとかえって抜けが気になったり、醜く見えたりもしますが。

 

サイクルを見出すという行為の全体像をぼんやりと伝えられたなら、そして《霊鍛冶のホフリ》ってマジでなんなんだよという思いを共有できたなら幸いです。それでは。

 

 

 

www.pokemon-card.com

pcg-search.com

*1:一応それぞれの収録パックは「ブラックコレクション」「ホワイトコレクション」「レッドコレクション」とすべて異なるのですが、「ビクティニと白き英雄 レシラム」を「ビクティニと黒き英雄 ゼクロム」の続編と呼んだりはしないのと同じように、同時発売のパックに収録された2枚を含むサイクルをメガ・メガサイクルとは呼ばないのが自然だと思います。時間をかけて少しずつサイクルが完成されていくことがメガ・メガサイクルを特別扱いする主な理由ですし

*2:一応それぞれの収録パックは「ホワイトコレクション」「ブラックコレクション」「レッドコレクション」とすべて異なるのですが、「ビクティニと黒き英雄 ゼクロム」を「ビクティニと白き英雄 レシラム」の続編と呼んだりはしないのと同じように、同時発売のパックに収録された2枚を含むサイクルをメガ・メガサイクルとは呼ばないのが自然だと思います。時間をかけて少しずつサイクルが完成されていくことがメガ・メガサイクルを特別扱いする主な理由ですし

*3:場に出ているカードを一度取り除き、再び出すこと。除去をかわす、場に出たときの能力を再利用するなど広い用途を持ちます

*4:『ストリクスヘイヴン』展望デザイン提出文書 その1|読み物|マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト

*5:追放のテキストがない場合、例えばクリーチャーAが死亡し、転生後スピリットが場に出ている間に元のクリーチャーカードをリアニメイトすると、「転生したクリーチャーA」「蘇ったクリーチャーA」が同時に存在する変な状況になる。ただし実際のテキストでもトークン生成を倍にする効果などにより「同一人物の霊が複数出てくる」ことは(格段にレアケースだが)あり得る