具体の具、実体の実

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【ポケカ】なぜレックウザVMAXはれんげきなのか?

はじめに

 

ポケモンカードゲーム ソード&シールドの2年目が終わろうとしています。

 

この一年はまさしく「バトルスタイル」の年でした。ウーラオスのフォルムの名前でしかないはずの「いちげき」「れんげき」という概念はポケカにおいてハチャメチャに濫用され、「鎧の孤島」はおろか「冠の雪原」要素まで呑み込み、結果としてガラル地方の田舎はどこも謎の武術集団が闊歩する魔境みたいなことになってしまいました。コレクター・ライト層を第一のターゲットに定めたパックであるはずの「イーブイヒーローズ」にさえかなりの数のいちげき・れんげきカードが含まれていたという事実は2年目の傾向を強く示すものといえるでしょう。カードをコレクションの対象としてしか見ない人にとって、ポケモンの色味を無視してデカデカと書かれた「いちげき」「れんげき」のマークは余分なノイズでしかないでしょうから。

 

さて、かようにして推されに推されたバトルスタイルですが、時が進むにつれて不満の声がポツポツと増えていたように思います。曰く、「いちげきが弱すぎる!」「どうしてこのカードがいちげき(れんげき)なんだ!」と。前者については専門外なのでこれ以上語らないとして、後者の最たるものはタイトルにもした《レックウザVMAX》でしょう。最近ではめっきり見なくなりましたが、発表当初はかなりのブーイングを受けていた印象があります。

 

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《溶接工》により炎エネルギーを、あるいは《モココ》の『エレキダイナモ』により雷エネルギーを大量に溜め、超高火力の『ダイバースト』をぶっ放すその姿は、どう見ても「れんげき」ではありませんでした。《カラマネロ》が溜め込んだ手札を『れんげきテンタクル』で一気にダメージに変えているのを見てもなお「カラマネロは山札に戻してるかられんげき!セーフ!」とだいぶ無理筋の擁護をしていた自分でも匙を投げる、燦然と輝く「トラッシュ」の文字。《モココ》と《レックウザVMAX》の組み合わせは《ヘルガー》と《いちげきウーラオスVMAX》とやっていることが殆ど変わりなく、もはや公式はいちげきを完全に見捨て、溜めて殴るといういちげきの基本戦術すられんげきに明け渡したのだ……

 

……と思っているのなら記事を書く必要はないわけです。レックウザVMAX》は確かにれんげきのカードであり、むしろれんげきとは何であるかを知る大事な手掛かりになる存在であるというのがこの記事の結論になります。

 

 

バトルスタイルとは?

「いちげき」「れんげき」らしさというものについて色々喋ったわけですが、そもそもこれらのバトルスタイルはどういった経緯で誕生したのでしょうか。ポケモンカードゲーム ソード&シールドはこれまでのポケカに存在した要素を片端からリニューアルすることで複雑さの増大防止と速い新弾ペースとを両立してきたシリーズですから、バトルスタイルにも元ネタがあってしかるべきでしょう。「赤と青をテーマカラーにした2つの陣営が対立(?)している」様子はADVおよびXY時代の「マグマ団」「アクア団」に類似しており、一方で「カード名ではない専用の表記によって陣営が規定される」システムはBW時代の「プラズマ団」に近いです。もちろん「専用のサポートを受けられる陣営」の起源は旧裏の「わるいポケモン」にまで遡れるでしょう。

 

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わるいポケモンを代表して謎の再録を果たした《わるいギャラドス》(再録後)。拡張パック「ロケット団」のパッケージに大きく載っていたのが抜擢の理由だという説を(一人で)提唱しています

では、こういった陣営要素はどのような形でゲーム上に落とし込まれているのでしょうか。「わるいポケモン」では主に、低HPと高い攻撃力で凶暴さやワルさが表現されていました。「マグマ団」「アクア団」はそれぞれ、ダメカンが乗って/特殊状態になって弱ったポケモンに対してダメージが増加するという形で弱い者いじめの印象を与え、またそれがデッキコンセプトにもなっていました。ここで留意したいのが、こういった陣営のコンセプトに引っ張られ、ポケモンがそのキャラクターから外れた能力を持つことがある、という事実です。

 

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『どくのつめ』……いつものカビゴンなら到底持ちえない技ですが、R団のポケモンだから、悪タイプを付与されたポケモンだからという理由で《わるいペルシアン》から受け継ぐ形で持っています。そもそも「わるいポケモン」初登場時は悪タイプすら存在しないわけで、いくら凶暴なポケモンを集めても陣営なんて形成できません。特に凶暴なイメージのないポケモンのキャラクター性を歪めることで、陣営の性質を表現しているわけです。一方でだからといってポケモンの元々のキャラクターが無視されるわけではないということも見落としてはいけません。《R団のカビゴンex》の下技『たおれこむ』の初出は旧裏《R団のカビゴン》ですが、すでに通常の《カビゴン》が一度持っており、カビゴンの個性となっています。『どくのつめ』を見て「ロケット団は毒を扱う嫌らしい陣営だ」と述べるのは結構ですが、『たおれこむ』を見て「ロケット団は自身を特殊状態にするデメリットのある技を扱う非情な陣営だ」と述べるのは的外れです。うだうだと書きましたが、つまり

 

ポケモンの個性 + 陣営の個性 = カード

 

ということです。ここまでたどり着くのに2000字かかりました。冗長すぎる。

(ただしXY時代の「マグマ団」「アクア団」については例外で、これらはわずか34種類のコンセプトパックにシナジーの全てを詰め込んだ結果、元のポケモンの個性はほとんど残っていません。こんなにも圧縮された陣営というのは先にも後にもない珍しいケースなため、これ以降は言及しません)

さて、ポケモンの個性と陣営のコンセプトが合わさってカードが生まれる…つまり、今そこにあるカードとポケモンの個性が分かれば、陣営の個性を逆算できるということです。

 

カード - ポケモンの個性 = 陣営の個性

 

ということですね。あまりに人をナメた話の進め方をしていますが、バトルスタイルに対する公式サイトの説明がフワフワしており、フレーバーテキストで「いちげきの基本はヘルガーを立てること。ダメカンがのるのにも臆せず高火力を叩き込むのがいちげきの精神なのだ!」みたいなことを言ってくることもない以上、これがバトルスタイルの特徴を知る大事な手段なのです。

また、せっかく対比的な陣営を用意してくれているのですから、メカニズムの採用枚数を比較するのも手でしょう。「コインをa回投げ、オモテの数×bダメージ。」とだけ書かれた技はどんなポケモンも持ちうるので先述の引き算が難しいですが、そのような技を持っているポケモンの数*1を調べてみると、いちげきが0枚、れんげきが9枚となっており、れんげきの個性であると分かります。ここまで差があると、「コインを投げて複数回攻撃するだけの技を持たない」がいちげきの個性であるとも言えますね。

こういった引き算と陣営ごとの集計とを併用することで、ただの印象論よりはまだ説得力のある議論ができます。たとえば先ほど例に挙げたカビゴン。いちげきのプロモが出ています。

 

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カビゴンの歴史の中で、これ以外に反動ダメージを持つものは存在していません。反動ダメージを効果に持つカードはこれを含めていちげきに6枚、れんげきに1枚存在しており、この差をもって反動ダメージはいちげきの個性としていいでしょう。

 

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ドードリオ唯一にしてれんげき唯一の反動ダメージ持ちであり、マジモンの異端児。れんげき成分を上技で回収しているので目立ちませんが、実はかなり不自然なカードでした

 

レックウザVMAXのれんげき性

さて、《レックウザVMAX》です。《レックウザVMAX》と、ついでに《レックウザV》から、これまでに登場したレックウザ達の個性を引くと、何が残るのでしょうか。

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それは「のぞむなら」「2枚まで」と「好きなだけ」です。

 

レックウザは自分の山札をトラッシュしてきました。手札の入れ替えも行いました。そして自分についているエネルギーをトラッシュして高い火力を出す技を何度も持ってきました。しかしそこでトラッシュするエネルギーは「炎または雷エネルギーすべて」「エネルギー1個」「エネルギーすべて」「炎と雷エネルギー1個ずつ」「炎エネルギーすべて」「炎または雷の基本エネルギーすべて」「エネルギー3個」「基本エネルギーすべて」と、技を撃つ瞬間の選択肢がないか、「炎か雷か」の2択か、どちらかしかありませんでした。レックウザはデメリットも、火力も、3択以上の調整ができない不器用なポケモンだったのです。

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例外。トラッシュするのは手札からだし、メイン技というよりはレベルアップ後にトラッシュからエネ加速するためのテキストみたいなところがあるし、そもそもSPポケモンだしで考えないことにしました

 

レックウザVMAX》《レックウザV》は違います。『ダイバースト』はエネルギーさえついていればデメリットと火力の選択肢の数も青天井になりますし、『スパイラルバースト』は炎エネ1個・雷エネ1個だけついている状態でも選択肢は3つ、最大で5つになります。引き算により、「技を打つ段階でデメリットと火力を調整できることはれんげきの個性である」という仮説が生まれます。そもそも『スパイラルバースト』という名前がかなり怪しいのです。《スパイラルエネルギー》が登場した直後に「スパイラル」を冠する技を持つことの意味を勘ぐりたくなります。

 

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こういうこと…?ちなみに25th記念パックのレシラム・ゼクロムは(『クロスフレイム』・『クロスサンダー』と全く同じ効果であるにも関わらず)『ブラックフレイム』『ホワイトサンダー』という新技名を与えられており、私はこれを直前に登場した「フュージョン」カードの《クロススイッチャー》『クロスフュージョン』といったネーミングとの被りを避けるためのものではないかと推測しています。これが事実であればわざわざ近い間隔で被った「スパイラル」関係の憶測の説得力も増すのですが……公式が……なーんも言わねぇんだな……

では「技を打つ段階でデメリットと火力を調整できる」カードを集計してみましょう。

いちげき1枚、れんげき5枚です。そしていちげき唯一のデメリットと火力を調整できるカードは《ジュペッタ》です。

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『かくごのうらみ』のデメリットは反動ダメージとは異なりますが、非常に近いです。「反動ダメージ」のいちげき性と「デメリットと火力の調整」のれんげき性を天秤にかけて前者が勝ったのでしょう。同様に《レックウザV》《レックウザVMAX》も、「エネルギーをトラッシュして大ダメージ」のいちげき性が「デメリットと火力の調整」のれんげき性に負けた、と言えるわけです。そもそも技を打つ瞬間の選択肢というのがれんげきに偏っているんですよね。れんげきの代名詞にして最大の長所であるベンチ狙撃では、相手のポケモンの数だけ選択肢が発生します。「選び」なんかでテキスト検索すると分かりますが、いちげきのポケモンの技にはほとんど選択肢が存在しません。せいぜい自分のトラッシュするエネルギーを選ぶくらいです。《ヘルガー》と《オクタン》を比較するまでもなく、れんげきはあらゆる場面で選択肢を多く持てるようデザインされており、そうなると《カラマネロ》の『れんげきテンタクル』も、その選択肢の多さから十分にれんげき的なんじゃないかなと思えてきます。

 

ところで、調べているうちに興味深いカードが見つかったので紹介します。れんげきの《ゴリランダー》です。ゴリランダーはエネルギーを大量にトラッシュして火力を出す『ダイレンダ』が個性のポケモンでしたが、れんげきになったことで「れんだ」技でベンチからもエネルギーをトラッシュできるようになりました。

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この変化のどこがれんげきなのでしょうか。それともれんげき成分は上技で回収しているということでしょうか…?

ところで、れんげきには「続けて技を使ったときのメリット」が散見されます。「漆黒のガイスト」収録のカードに多いですね。

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実はほとんどのれんげきポケモンは、何事もなければ手貼りだけで次ターンにも技が使えるようデザインされています。エネルギーをトラッシュしたり手札に戻したりしても、軽いエネコストの技を同時に持つことで、(技の強さはともかく)絶え間なく技を使えるのです。まさに「連撃」です。次のターンに技を使えないデメリットを持つ『キョダイマルノミ』を主力技にする《ゲンガーVMAX》、『キョダイイチゲキ』の次のターンに技を使うためには3エネを調達しなければならない《いちげきウーラオスVMAX》を擁するいちげきとは対照的です。

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この例外は《コジョンド》とさっき示した《ゴリランダー》だけです。《コジョンド》は自身が山札に戻るという搦め手的性質のれんげき感が強すぎるのでいいとして、《ゴリランダー》は『どとうのれんだ』で自身のエネルギーをすべてトラッシュした場合、次のターンは確定で動けなくなってしまいます。なんだか非常にいちげき的ですね。しかし《ゴリランダーVMAX》と比較してみると合点がいきます。自分からだけトラッシュできる場合よりも、ベンチのエネルギーもトラッシュできた方が《ゴリランダー》自身にエネルギーを残しやすく、次のターンに攻撃しやすいわけですから、この変化は非常にれんげき的なのです。「エネをたっぷり抱えたゴリランダーが次のターンまで生き残ることねえだろ」「どうせベンチに『はるらんまん』のチェリムいるだろ」などと正しいことを言ってはいけません。机上の話ですから。

この「連続で技を使いやすいようになる変化」はレックウザ達にも当てはまります。(そんな状況なかなかないでしょうが)エネ加速要員も手札のエネルギーもない状況であっても、エネルギーをトラッシュする数を調節することで次のターンにも同じ技を撃つことができます。これは炎か雷エネルギーどちらかをすべてトラッシュしなければならなかった《レックウザex》《レックウザEX》とは異なる特徴です。この観点から見ても、レックウザはれんげきへの適応を行っていたのです。

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この話題は「そもそもなぜレックウザがれんげきとして登場したのか」という根本的問題にも繋がります。れんげきデッキとはモチーフで言うならタコの支援を受けて酔拳使い(諸説)やイカが殴るデッキなわけですから、ウネウネして体の柔らかそうな東洋龍、レックウザが選ばれた……というのはまず一つあるとして、あるいはいちげきの同ポジションとの対比──鋼の体を持ち、天を摩するドラゴンであるジュラルドンの対として……というのも考えられるとして、もともとのレックウザの性能のれんげき性というのも外してはならないと思います。

レックウザex》にはトラッシュの対象を基本エネルギーに限定しなかった結果「レインボーエネと基本炎エネをつければエネ要求満たしつつ全トラッシュで80ダメージ!」と悪用された歴史がありますが、デザイン時点での意図としては、『ドラゴンバースト』を撃った後の《レックウザex》には炎か雷エネルギー、どちらか一方がついたままであり、足りていない方を手貼りすれば次のターンにも『ドラゴンバースト』が撃てるはずだったわけです。大振りで取り回しが悪くなりがちな全エネトラッシュの青天井技を、トラッシュの対象に制限をかけることでマイルドにし、連発する場面すら作りだした……『ドラゴンバースト』とは元来、そういった技のはずです。これはすごくれんげき的であり、数多のレックウザがいちげき的な性能で出てきたことを考慮しても、レックウザのれんげき的一面として注目に値します。レックウザはれんげき的調整を加えられる前から、その性能に少しだけれんげき要素を含んでいたのです。

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いちげき方向に振り切れたレックウザ。体固そう。いちげきウーラオスのこと信奉してそう。休日はあくの塔に通ってそう。

 

おわりに

まとめましょう。

  • レックウザはもともと、れんげき的な一面である「技の連発」を少し志向した技『ドラゴンバースト』を持っていた
  • 『ドラゴンバースト』に「技を打つ段階でのデメリットと火力の調整」というれんげきの個性を強めるアレンジを行ったのが『スパイラルバースト』『ダイバースト』である
  • 「技を打つ段階でのデメリットと火力の調整」がれんげきの特徴である、というのは《レックウザV》《レックウザVMAX》と過去のレックウザ達との差異と、いちげき・れんげき間の比較から推察される

どうでしょう。レックウザVMAX》は確かにれんげきのカードであり、むしろれんげきとは何であるかを知る大事な手掛かりになる存在であるという最初に述べた結論に納得していただけたでしょうか。書かれていることにのみ着目する限りは、《レックウザVMAX》はれんげきを名乗るに相応しいカードです。

では書かれていることから一歩離れて実用上の話ですが……『モココ』がれんげきでないことを加味しても、結局《レックウザVMAX》が「溜めて、殴る」いちげき的な動きをしてしまっていることは事実です。うーん……もはや公式はいちげきを完全に見捨て、溜めて殴るといういちげきの基本戦術すられんげきに明け渡したのではないでしょうか?(振り出しに戻る)

 

レックウザバッシングは「レックウザは思ったより弱い」という事実が露見し、お株を奪われた側であるはずのいちげきデッキもなんだかんだで結構やれることが分かってからはすっかり鳴りを潜めており、やや藁人形を殴っている感は否めませんが、色々と面白い話が掘り出せたので満足です。陣営の特徴を探る楽しさが伝われば幸いですが……公式サイドが喋ってくれれば一番早いんですよね。公式が内実をバラしてくれるその日まで、こうやってあることないことを書き連ねようと思います。それでは。

*1:本来なら割合で示すべきなのですが、フュージョンアーツ まででいちげき73種・れんげき75種とほぼ同数だけ登場しており、そこまでピンとこない割合で出すより直接枚数で言った方が分かりやすいと考えこのような形になっています。以下の比較についても同じ

【ポケカ】土地・エネルギー・ブンドド

前回の記事が好評でした。ありがとうございます。たくさんの反応をいただいてホクホクでした。

guandmi.hatenablog.jp

 

気を良くしたのでさて次は新弾の話でもしようか、それともいったんポケカ全部の歴史の中から好きなカードでも紹介しようか……と考えていたのだけど、まずはポケカのフレーバー面の味わい方について、自分の考えを置いておいた方がいい気がしてきた。

 

はじめに

まず初めに述べておかないといけないことだが、ポケカのフレーバーを楽しむのは難しい。というより、楽しめるカードが少ない。フレーバーテキストのあるべき場所に図鑑説明が鎮座しているせいで大抵の進化前なんかは特徴のない技名一つ(しかもバニラ技)しか情報量がないこともしょっちゅうで、特にLEGENDでのリセット以降は活躍させる気のないカードのテキストに注がれる労力が明らかに減ってきている。

では環境に入れるような強力なカードは?……残念ながら、環境の主役となることを期待して作られるカードとそのポケモンの関連性は、かなり長い間低くあり続けてきた。完全に憶測だが、おそらく「環境に入れたいポケモンを決める」「環境に入れたい性能を決める」を個別に行ってからがっちゃんこするパターンが多いのだろう。トップダウン(コンセプトを決めてから性能を決める)、ボトムアップ(性能を決めてからコンセプトを決める)双方を同時に行っていたら齟齬が出るのは当然である。その効果も完全に新規であることはほぼなく、過去に実績を残した強力な効果の中から制御のきくものを選んで再利用していることが多い。

 

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鳴り物入りで登場したバドレックス達。「ガイスト」と場のエネ数参照、「ランス」と可変数エネトラッシュに関連性が見当たらない。『エンペラーライド』に関してはてょわわわ〜んしてベンチを操っている説を(一人で)提唱している

 

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ではバドレックスの個性は全く表現されていないかというと、それもまた違う。アストラルビット・ブリザードランスの性能は原作における「ただ威力が高いだけの技」に留まらず、五つの霊魂/一つの氷の槍を放つという対比的なエフェクトに即した良いアレンジがなされている。はくばバドレックスVには槍の先端にキラリと光る加工がされているが、これは原作におけるブリザードランスのエフェクトの再現である。ただ実際のゲームプレイでこれらの技が使用される頻度は、(アストラルビットが一部のデッキの人権を奪う程度に強い技であることを考慮しても)VMAXのものと比べて極めて低いだろう。使われづらい技、性能に関係のない加工だからこそ凝ったことが許されているのだ、という逆説を感じさせる

 

そういうわけで、ポケモンをよく知らない人に「ポケカのフレーバーを一緒に楽しもうぜ!」とは中々言えない。まともにフレーバーを味わえるカード自体、ごく稀にしか登場しないのだ。が、それでもポケモンというコンテンツの強さを抜きにして、ポケカ特有のフレーバー的魅力を挙げるとしたら、その一つに「エネルギーカードの物理的動き」があると思っている。

 

土地カードの活かし方

回り道になるが、ポケカの兄貴分に当たるマジック: ザ・ギャザリングの話をしたい。マジック: ザ・ギャザリングがポケカのウン十倍フレーバーに気を遣ってデザインされているゲームであることを前提にした上で、ポケカのフレーバー的長所を紹介する…というのがこの記事の趣旨である。

 

TCGの祖であるマジック: ザ・ギャザリング(以下MTG)では、呪文や能力を使うために必要なコスト、「マナ」を支払うために「土地カード」を1ターンに1枚設置できる。ポケカも似たようなシステムとしてエネルギーカードを採用しているが、カードを使うためのリソースにしかならない専用のカードをデッキに混ぜて使う、というのはすっかり古くなってしまった仕組みだ。引きすぎたり、引かなさすぎたりすることで事故が誘発する。もちろん土地事故をなくした後発のタイトルであっても別の要因で事故は起こるし、そもそも憎まれがちな土地事故だが、最近──特に、強力なサーチカードや、デッキの外部から特定のカードを唱えられる危険なメカニズム「相棒」と、それらが引き起こす再現性の高まりについての議論が盛り上がって以降──土地事故は適度なランダム性をもたらすものとして、そこそこの再評価を受けていたりもする。もちろん不快なものではあるし、MTGアリーナ(MTGのアプリ版)で土地を引けなかった相手が3、4ターン目で投了する*1のを見るたびに「どうにかしろよこの欠陥システム…」とは思うのだけど。

このようにMTGをプレイする上で重要な要素である土地だが、フレーバー上での働きも見逃してはならない。土地がカードとして存在し、ゲーム上重要な意味を持つからこそ、土地が出るたびに何かする「上陸」、デッキトップをめくって土地なら手札に加え、そうでないなら自身が強化される「探検」といった能力が生まれる。「上陸」は大地そのものが躍動する次元、ゼンディカーにおいて地形を活かして戦う野生生物がよく持っている能力であり、ポケカで無理やり例えるとフレーバー的にはとちかんバチンキーに近い。

 

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刷られた(再録された)年とぱっと見のシルエットと色とフレーバーの一部分以外、全部違う

 

システム的に上陸に相当する、エネルギーをつけて誘発する特性はポケカだとたまに登場するが、なにぶんエネルギーの実態が分かりにくいので『しぜんかいふく』のように時間・ターン経過を表す目印にしたり『ほのおのからだ』『みずのベール』のようにつけるエネルギーのタイプを指定した上でそのタイプのイメージを借用したりといった工夫を加えている。このへんを掘り始めると「みずましヌメラは実質《硬鎧の大群》」「はっこうえきツボツボの上陸1ドロー狂いすぎでしょ」みたいな話が永遠に続くのでここまでにしておく。

 

土地というシステムの美しい活用法は土地をテーマとするゼンディカー外の方にむしろ目立つと思っていて、個人的には《航海の神、コシマ》が好きだ。

 

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コシマは北欧神話・バイキング・メタルをモチーフとする次元、カルドハイムに住まう神の一柱で、この次元の神は元ネタ通りかなり人間に近い。破壊不能などの神らしい能力を持たない一方、こちらに特に注文をつけたりせず素直に戦ってくれる。

 

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素直に戦ってくれない別次元の神たち。信心が足りないと顕現できなかったり、力を示さないと認めてもらえなかったり。

 

コシマを従えるプレイヤーは、ターンの始めに彼女を追放──旅に送り出すことができる。追放領域はポケカでいうところのロストゾーンなのだが、それよりずっと多様な能力に利用される万能な領域だ。

コシマが旅に出ている間、プレイヤーが土地(青のデッキだろうからそれが《島》であることも多いはずだ)を置くとコシマはその土地を航海し、経験の証として「航海カウンター」を得る。ある程度旅をさせたところで、プレイヤーはコシマを呼び戻す。するとコシマは「航海カウンター」の数に応じた旅の中での自身の成長(+1/+1カウンター)と共に帰ってきて、旅の中で得た知識(ドロー)をプレイヤーに与えてくれる。完璧なフレーバーだ。

カルドハイムの神は両面カードになっており、裏面にはその神に関連するものがカード化されている。コシマの裏面はクリーチャーを搭乗させて使う、機体《領界船》で、機体の攻撃が相手プレイヤーに通ると相手のライブラリーを略奪する能力を持つ。呪文は略奪しても使えないが、土地カードは自分のものとして使うことができる。要は相手の土地に侵攻できるわけだ。

 

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相手のカードを使うのは盗み・略奪のポピュラーな表現だ。一番右は《領界船》と同じく機体で、より直接的にバイキングの船を元ネタにしており、コモンにするため複雑さを削って土地を探すのは自分のライブラリーとなっている

 

これはデュエマのように呪文やクリーチャーがマナの出所を兼ねていたり、ハースストーンのようにマナが自動で溜まるシステムだと困難な表現であり、古臭いシステムの恩恵といえる。もちろん、システムが古いほどフレーバーが芳醇になるという訳でもない。デュエマの自然文明は敵を自然に還すことを示唆する、マナゾーンに置くことでの除去を有するが、MTGではクリーチャーカードを土地として設置できないため、似たようなことをすると「このカードがついているものはこういう土地になり云々」という簡便でないテキストや「このクリーチャーは流刑されたがその先で土地を見つけた」という表現にするしかない。差異があるというだけの話だ。そして差異があるからこそ様々なゲームを比較することに意味が生まれる。そして楽しい。

 

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ゲーム上の損得が似ていてもカードの挙動と表現が異なる

 

エネルギーカードの活かし方

ここでこの《ゴルダック》を見てほしい。

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ゴルダックの『およぐ』はSMでも登場しており、ゴルダック以外に『およぐ』を持つポケモンは登場していない。地味ながらもゴルダックの代名詞ともいえる技であり、一つのポケモンを背負うに相応しく、相手の場に存在する水を伝って敵陣の奥深くに攻撃する、とてもフレーバーに富んだ技で……

 

……はい。MTGを知っている方ならピンと来ただろう。この技、全くオリジナルではない。MTGの「島渡り」そのまんまである。

「島渡り」は相手が土地の種類の一つ「島」を置いていると相手のクリーチャーに攻撃を阻まれることなく攻撃を通すことができる能力であり、土地の種類に合わせて様々な渡り能力が存在する。海を知り尽くしたマーフォークなら島渡り、森の木々に身を隠す小動物なら森渡り……といったように、それぞれの長所を活かして様々な土地を通り、妨害をかわして対戦相手のところに辿り着くのだ。MTGの最初期から存在し、フレーバーもしっかりした能力だが、相手のライフを0にすることで勝利するMTGにおいてホイホイ相手に攻撃が通るのは単純に強い一方で、逆に相手が対応する土地を使わないデッキだと全くの無意味になる…という極端さから収録されなくなり、すでにスタンダードに登場させない宣言から6年が経過している。

SMのゴルダックの『およぐ』は無色3エネ90ダメージであるため渡り能力のようなことにはなっていないが、もしこれがより実用的なカードの持つ、有色のエネ要求で、ベンチを呼ぶ手段の乏しい環境で、『ベンチバリア』を貫通する*2、《デデンネGX》などを倒せるダメージの技であったなら…メタゲームの範疇を超えてとても不毛なことになっていた可能性はあるだろう。特定の相手に対してだけ勝利に直接近づくとはそういうことなのだ。不毛なことにならないよう実用性を抑えたとも言える。

 

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スタンダードに加わらない特別な立ち位置のセットならちゃんと出てくる。かつての凶悪カード《リシャーダの港》のリメイクであることも含め、古参プレイヤーへの目配せに満ちている

 

『およぐ』とその元ネタ「島渡り」、どちらがよりフレーバー的に納得できるかは決めがたい。「水の中を泳ぐ」「島の周りを泳ぐ」どちらもなるほどとしか言いようがない。一方で設定を突き詰めるなら別に水エネルギーって水そのものではなくてポケモンの成長を表す目印のようなもののはずだしその中を泳ぐのってちょっと変、でもそれを言うならMTGの土地は本当にその場に切り出してくるわけではなくてあくまで魔法的な繋がりによって遠くの次元の土地からマナを引き出しているはずでそこをクリーチャーが通るのはおかしい……

 

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「沸騰による水の破壊」。ポケカMTGも、古いシステム故に変な物体が単独で重要カードになっており、それ故たまにフレーバーが面白いことになる、そこに何の違いもなさそうだが…?

 

しかし確実に言えることがある。エネルギーカードには草や炎や水などが描かれていて、草や炎や水などは現実世界でよく移動する。様々な次元の風景が楽しめる土地カードと異なり、分かりやすさを優先してかタイプのシンボルが大きく描かれただけのエネルギーカードだが、これを活かして草や炎や水などの移動を表現してきた歴史がポケカにはある。

 

ポケカ最初の拡張パックに収録されたカントー御三家の最終進化は、エネルギーに関する特殊能力を持っている。この統一性は性能先行のボトムアップ・デザインだろう。フシギバナは『エナジートランス』で草エネルギーを移動させ、リザードンは『エナジーバーン』で全てのエネルギーを炎エネルギーとして扱い、カメックスは『あまごい』で無尽蔵に水エネルギーを供給する。なぜ原作ゲームに天気の概念がない時代に、他2つと明らかな雰囲気の差をつけてまで、カメックスの特殊能力が『あまごい』と名付けられたのか?それは手札の水エネルギーを次々と場のポケモンにつけていく様子が、水の雫が描かれた紙を上から下に動かしていく様子が、雨に似ていたからに違いない、と思う。だからこそ後に登場するオーダイルの「エネルギーをトラッシュに落としてから山札に戻して攻撃する」戦法が『どしゃぶり』『ぎゃくりゅう』と命名されたのだ。

 

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オーダイルと雨ってあんまり関係ないはずなのだが。『あまごい』はリメイクの際にデメリットの追加と共に名前が無機質になったが、それでもちょっと引っ張られている

 

トロピウスが初登場で持った技『いやしのみ』はコンセプト先行のトップダウン・デザインに見える。トロピウスの首のフルーツをベンチポケモンに渡して回復させる技をデザインするとき、なぜエネルギーを付け替える効果をつけたか?実用性以上に、草エネルギーに植物(……の葉。若干惜しい)が描かれているからだろう。

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ポケカはよい子のゲームであり、フレーバーが軽視されがちなゲームだ。トラッシュからエネルギーを山札に戻して攻撃する効果は、エネルギーのトラッシュを多く要求し、トラッシュにエネルギーが溜まりやすい炎タイプに多くなった(『だいえんじょう』『さかまくほのお』のように名付けは頑張っているが、『ぎゃくりゅう』のシンプルさには敵わない)。トロピウスも、今ではエネルギーの付け替えという複雑さを増大させるオプションを伴うことなく回復を行っている。わざわざ古いカードを引っ張り出してきたのはそういうことなのである。

そもそもこういった表現は超・悪・フェアリーあたりの実体がない存在であるタイプでは不可能だし、頻繁に登場するものでもない。最後に「なるほど!」と思えたのは『よどみにしずめる』ブルンゲルだろうか。『ぎゃくりゅう』と違ってエネルギーが移動しないところが絶妙に怖さを演出している。とはいえエネルギーカードの物理的動きとフレーバーとの噛み合いという趣旨からは少し外れる気もする。動いてないし。

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ポケモンもトレーナーも道具も、ポケモン本編に登場するものが一切描かれていない謎のカードをデッキに大量に混ぜて使うという、古く粗いシステムが、ごくまれに「ブンドド」的な魅力を放つ。本当に、本当に希少な輝きだが、こういうのを見るとポケカ贔屓の私はすごく嬉しくなってしまうのだ。皆さんも新弾のカードリストを見るときなど、こういった表現がされうることを頭に入れておくと、カードの魅力に世界で初めて気づけた人間になり、ニチャリと笑えるかもしれない。

 

 

*1:相手の顔が見えないと投了のハードルが下がる

*2:渡り能力は通常のベンチ狙撃に近い能力である『飛行』を止められる『到達』でも止まらない

【ポケカ】剣盾1年目の豊かな表現を含んだカード

はじめに

 

2020年、ポケモンカードは虚無に包まれていた。

 

ポケモンカードは時折、あらゆるゲームの宿命としての複雑化から逃れるため、大胆なリセットを行う。

前回のリセットはDPt~LEGEND期だ。DPtでのSPポケモンの導入を前兆としてゲームはより単純な方向へと向かい、LEGENDではキラレアの一部までバニラに成り果て、BWでは戦いの主役からカードを重ねるシステムが追い出された。

その後紆余曲折ありつつも10年近くかけて増大したポケカの複雑さはSMで頂点に達し、TAGTEAMの登場を経て剣盾期での再びの単純化が始まった。個性ある刺激的な効果に満ちたGXの後釜に座ったのは数字の大きさがコンセプトのV/VMAXで、非ルールの半数は「三神落ちたら楽しそう」の言葉のもとプレイヤーに見放され、もう半数は開発側にも見放され、一ミリもポケモンの個性にかかっていないテキストと一切のチャンスのない性能を持つことを余儀なくされた。新しく現れる環境級カードはどれもが良く言えば過去の総決算、悪く言えば焼き直しであり、ストレージは溢れ、「しつこい ポケモンの絵が書かれた紙を売ってるだけのコンテンツに一般的なカードゲームとしての価値を求める方が異常者なのだ」という言説が説得力を増すかに見えた。

 

だが……奥深いフレーバーを持つカードは死滅していなかった!!

 

本記事では剣盾1年目、特に中期あたりの面白めなカードを軽く紹介する。

 

 

 

ディアルガ(伝説の鼓動)

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上技は初出。シールド戦用パックに多い、汎用的な技に新しい名前をつけてフレーバーを補強するやつだ。同弾のマギアナの『オーバーホール』もこのパターンで、機械の点検作業を手札のリフレッシュになぞらえるセンスが光る。

下技はルギアBREAK(めざめる超王)が初出で2回目の登場。ルギアにはあまり破壊のイメージも、閃光を放つイメージもない。妙だな…?

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BREAKの中ではかなりマシなビジュアルしてると思う

 

ポケカにおけるルギアには『エレメンタルブラスト』という唯一無二の個性があるのだが、ルギアLEGEND(ソウルシルバーコレクション)を最後にルギアはエレメンタルブラストを与えられていない。確かに世界に存在する全てのルギアが三鳥の元締めをやってる訳でもないし割と納得かもしれない。ルギア爆誕から長い年月を経た最近のルギアはむしろ風成分を強調されている傾向にあるのだが、風という個性はいまいちカードでの性能と結び付かず、そんなこんなでフラフラしていた薄味ポケモンであるルギアが、BREAK進化というシステムに染まりきった結果*1が『はかいのせんこう』なのだろう。

この『はかいのせんこう』を完璧に活用したのがディアルガだ。専用技『ときのほうこう』が反動技なのもあってかディアルガは大振りな技を持たされがちだったし、ダイアモンドのポケモンであるから閃光要素もばっちり。後継としてこれ以上のポケ選はないだろう。

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大振りな閃光を放つディアルガ(ダイヤじゃなくてメタルのフラッシュなのか…。)

 

ところで、薄味ポケモンであるルギアに対してディアルガはどうか。これはもう文句なしに特濃のスルメポケモンで、噛めば噛むほど味が出る。

初出でいきなり汎用技のはずの『ラスターカノン』に自身のエネバウンス&退化効果をつけて鋼ポケモンからまともな技を奪い去る大失態を演じたのち、様々な手段で『じかんポケモン』としての個性が表現されてきた。ドロー、追加ターン、進化封じ、カードをトラッシュから山札の上へ、味方ポケモンの進化、相手のサイド追加、自分の手札を全部山札に戻して切る(!?)、ワザ封じ、自分の取るサイド増加……

このディアルガはそのどれでもない、しかし完璧にディアルガらしい性能を与えられた。それは『はかいのせんこう』でトラッシュしたエネルギーを、みずから『クロックバック』で付け直すというもの。実際のシールド戦ではおそらく逆に『クロックバック』で加速したエネルギーを『はかいのせんこう』でトラッシュし、そのまま反撃で倒される…ということが多かったと思われるが*2、自らを犠牲にして大技を放ったのち、時を戻して自分の被害だけなかったことにするという和マンチ風味な戦法がカードで表現されたことはディアルガの歴史に刻まれるべきだろう。

 

ザルードV(伝説の鼓動)

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上技はザルードだね〜で終わる。問題は下技で、これはMジュカインEX(バンデットリング)の『ジャギドセイバー』のリメイクだ。

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メガジュカインが『ジャギドセイバー』を持つのはわかる。メガジュカインといえば特性『ひらいしん』でもアピールされているギザギザした尻尾だ。

メガジュカインが草エネ加速と回復を行うのもわかる。栄養の詰まった背中の種で草木を育てるんだね。

…でも『ジャギドセイバー』で草エネ加速と回復をするのはわからない。家庭と故郷の剣か?

思うにMジュカインEXはコンセプトからして詰んでいたカードだったのだ。M進化ポケモンはそのレイアウト上ワザ一つだけで構成せざるを得ず、ジュカインの象徴であるリーフブレードはコイン技。コイン技だけのM進化というのは特性のないカジリガメVMAXみたいなものだ。嫌すぎる。剣っぽい技の効果というのは草タイプ全体の積み重ねと比べてやれることが狭いのに、名前だけでも剣を振らせなければならない。その結果がこれなのだろう。

ザルードVにおいては、『ジャングルライズ』というふわっとした技名を持たせることでこの問題を回避している。映画でのザルードの個性もロープアクション・回復・植物育成といったところで、まさにザルードらしい一枚と言える。似たような良リメイクにリザードン(仰天のボルテッカー)がある。トラッシュにいる使い手の数を参照するとき、それをやっているのがネンドール(裂空のカリスマ)だと「ダイゴの霊を操って攻撃しているのか…?」などといらぬ詮索を招いてしまうが、リザードンなら「共に戦った分だけ成長したんだな!」とまっすぐ受け止められる。ところでトラッシュにいるサポートって別に死んでるわけではないはずなんだけど、ゴースト系の技とか『おむかえちょうちん』辺りを見ると死んでる感を出す意図が伝わってくるので、まぁ程々にぼかしつつ雰囲気作りに利用する方針なんだろう。

 

ローズ(ムゲンゾーン)

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多くの虚無カードを産出してしまったパックであるムゲンゾーンから現れた、突然のフレーバー全振りおじさん。ダイマックスをジムバトルに導入した人物かつムゲンダイナを育成していた人物(性格: せっかち)としてこれ以上の表現はちょっと思いつかない。

人気な/人気にする予定の人間キャラクターはしばしばそのキャラクターと無関係な(しかし強力な)テキストを持たされがちな昨今、凝ったニッチなテキストがそのキャラクターの人気のなさ/人気にする気のなさを示すという現象、皮肉。謎髭ビール腹私服がどう見てもパンツうさんくさおじさんに人気が出るのを想定されても困るが。でも自分の観測範囲だと割とじっとりとした人気を確立してるんだよな……あのダンデだって要素だけ抜き出せば謎髭謎マントスポンサーペタペタ貼り付けセンスとしては微妙だよねお兄さんだしな……

ローズタワーとのデザイナーズコンボも良い。周囲の人々が支えてくれてこそのローズさんというわけですね。ピオニーにローズと同じデメリットをつけた結果ピオニーとローズタワーが微妙にシナジってしまったのはちょっと面白い。

 

マルヤクデVMAX(爆炎ウォーカー)

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伝説の不人気パック、爆炎ウォーカーの顔。顔なのでしっかり強く、しっかり再録され、爆炎ウォーカーの価値をさらに引き下げた。最近は爆炎ウォーカーすら売り切れていることも多く、末法の世を感じますね。

性能として別に新しさとかはないのだけれど、撃ち続けることで火力が増す効果を炎の渦効果であるキョダイヒャッカにつけたのには、忠実な原作再現とはまた違う納得感がある。単独で戦えるためにカブ(カブもローズほどでないにしろイメージに合った性能)と好相性なのも良い。本当によく考えて作られた、よくできたカードだと思う。

これに限らずマルヤクデは炎エネを大量につけたくなるデザインをされることが多い。どこまで意識されているかははっきりしないが、炎エネがずらりと並んだ姿はマルヤクデによく似ている。この特色は独自の技名「つらなるほのお」「バーニングトレイン」で補強されており、剣盾の新ポケの中ではかなりしっかりとした個性を持てている。

 

おわりに

「仰天のボルテッカーも1年目だったな〜」とカードリストを開いたら激おもしろカード(同年比)が大量(同年比)に現れてもういいかな…となったのでこれで終わりにする。剣盾1年目には本当にいかにもな虚無カードが多く存在したが、だからといって虚無な時期だったと丸ごと忘却するには勿体ない。ポケカが剣盾シリーズに入って以降、テキストはともかくイラストにはきちんと熱意が注がれており、ポケモンの公式絵の封印(イラストレーター: Ken Sugimoriでカード検索すると分かりやすい)はその代表である。爆炎ウォーカーには個人的に大好きな『原作での出現場所を律儀に守るヒンバス』『ターフスタジアムで戦うシュバルゴ』を始めとして原作ファンをにやりとさせるイラストがいくつもあるし、ヒポポタス(ムゲンゾーン)は本当に何なのかわからなくて面白い。何がどうなったらヒポポタスでムゲンダイナと戦う羽目になるんだ。

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草タイプに対するメタの張り方が陰湿すぎる

 

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背景をよく見るとvsムゲンダイナ時のタワートップ。なんで?

本記事は双璧のファイターあたりの時期に書き始め、別に自分がわざわざ発信しなくてもな〜と放置していたものだが、しばらくして剣盾1年目のカードリストを眺めてみるとまぁ虚無いこと虚無いこと。ちゃんと考えて作られたカードをこの中に埋もれさせるのは忍びないということで投稿することにした。

ポケカの複雑さは今なお、SMと比べれば遥かに低いレベルに保たれている。しかし本日発表されたデオキシスフュージョンアーツ)などを見る限り、いわゆる「悪いこと」、制作側の思惑を離れた相互作用に対してより寛容になっていくこと、それに伴いカードのデザイン空間の広さがSMに近づいていくことが予想される。この記事が、これから出るであろう(出てほしい)多彩なカードに押し出され、いずれ確実に我々の記憶から消えていく、狭いデザイン空間の中で奮闘して作られたカードたちのことを思い出すきっかけになれば幸いである。

 

 

 

 

*1:ロストゾーンに染まると突然パッケージを飾ってノリノリで相手をロストパージしはじめる。なんなんだこいつは

*2:シールド戦エアプなので間違ってたらごめんなさい

【ポケモン剣盾】連射コントローラーによる半自動色バルジーナ粘りの最適解

短いまとめ

ウォーグルのつばさでうつを使うとおそらく最高効率で野生産色バルジーナの厳選ができる。

 

まえがき

・HABCDSの後に続く数字は断りのない限り種族値とする。

・断りのない限りダメージ計算の攻撃側はAまたはCに特化してこだわり鉢巻/眼鏡を持ったLV100のポケモンであり、防御側はHBDV、BD上昇補正の無振りLv60バルジーナとする。

ポケモンをしっかりやるのが久しぶりなので表記などが所々古臭いと思われる。

 

概要

テクニシャンカポエラーのこうそくスピンを用いた自動色ウォーグル厳選↓

www.youtube.com

をシールドのバルジーナで再現した例が見当たらないので、する。

手順としては

 

バルジーナをワンパンできるポケモンを手持ちの先頭(シンクロ持ちを挟んでも可)に置く。使うのは一番上の技のみで、バルジーナをワンパンできる中で最もPPの多い技にしておきたい。

②砂塵の窪地の所定の位置(上動画参照)に立ち、連射コントローラーでAボタンの連射機能をオンにする。

 

これだけ。この位置にはソードではウォーグル、シールドではバルジーナがほぼ確定で出現する(霧のときのみ2%でトゲキッスが出る)エリアがあり、固定シンボルではないので倒すたびに復活しては主人公を見つけて突っ込んでくる。あとは放置すればバルジーナが自動的に倒されていき、いつかは色違いが出現するという寸法である。たまにバルジーナが画面外に出るので右スティックを横に倒して固定してもいいが、酔うので自分は手動で視点変更していた。

PPが切れたときの回復だけは必ず手動で行わないといけないので、どれだけPPが多い技でバルジーナを倒すかが効率&快適さアップの鍵となる。

 

おすすめポイント

ウォーグルは通常特性がするどいめ/ちからずく夢特性がまけんき(有用)なのでせっかく手に入れた色ウォーグルも実戦投入が難しい(上動画の方も結局地獄のような国際孵化の末夢色ワシボンを手にしている)。一方でバルジーナは通常特性がはとむね/ぼうじん、夢特性がくだけるよろい。ダイホロウや眠り粉への耐性は十分に実用的であり自然に色バルジーナを使える。

 

おすすめしないポイント

バルジーナは耐久が高く、詳しくは後述するが素の最大PPが40(つまり最大の最大PPが64)(ややこしい)の技でバルジーナをワンパンできるポケモンがおそらく存在しない。したがってポケモンや技の入れ替え、PP回復などを挟む頻度が上がって効率が落ちる。

・そもそも野生での色粘りの効率があまり高くなさそう。剣盾の野生色出現率については情報が錯綜しているが、少なくとも連鎖(連鎖の途切れる条件すら詳しくは発表されていない)のない状況では図鑑の「戦った数」による色違い率上昇はないか、極めて小さいっぽい。時間効率でいうなら国際孵化の方がよいのでは…?国際孵化ならワシボンバルチャイも効率変わらないしなんならこの記事もいらないのでは…?

・ちょこちょこ手動での操作が必要とはいえ連射機能を使うので達成感が薄い。もともと色粘りなんてものは自己満足の面が大きいのでその自己満足すら損なっては何が残るというのか…。

・色違いをうっかり倒す事故が頻発する。すでに2体の色バルジーナが犠牲になっている。

 

なぜウォーグルなのか

ではバルジーナ(HBD110-105-95)をワンパンできる最もPPの多い技はなんなのか。結論から言えばウォーグルのつばさでうつだったわけだが、今後DLCなどで異なる耐久のポケモンをワンパンし続ける必要が生じるかもしれない。そこでこの技にたどり着くまでの過程を残し、人類の発展に貢献したい。

 

ポケモンwikiのわざ一覧をPP降順で見るとPP40のダメージ技はこうそくスピン・このは・えだづき・てかげん・みねうちの5つ。このうちバルジーナをワンパンするという目的に適うものはこうそくスピンのみ。現在のガラル地方にこうそくスピンをタイプ一致で撃てるポケモンは存在せず、こうそくスピナー(こうそくスピンを覚えるポケモン)の中でA種族値最高はドリュウズ(A135)。火力アップの特性を持つこうそくスピナーはカポエラー(テクニシャン/A95)・デリバード(はりきり/A55)・バルキー(こんじょう/A35)のみで、こうそくスピンの火力はカポエラードリュウズとなるのでカポエラーはガラル最強のこうそくスピナーとなる*1。つまりガラル最強のPP40技は鉢巻A特化テクニシャンカポエラーLv100のこうそくスピンであり、HBVかつB上昇の無振りバルジーナLv60はこれを余裕をもって耐えてしまう(71.3~84%)。HB逆V無補正でも乱数で耐える。ここまで耐えられると技のPPを妥協してでもより火力の高い技を採用しなければならない。

 

そこでPP35の技を見てみれば、かぜおこし・からみつく・たいあたり・つつく・つばさでうつ・どくばり・はたく・ひっかく・メタルクローと錚々たる顔ぶれが並んでいるが、A95鉢巻の実質一致威力50技を易々と耐える(イメージがしづら過ぎる…)相手には力不足となってしまう。相手はザシアン(剣の王)のメタルクロー(ふとうのけん込み)でようやく確一(108.1~128.1%)の化け物なのだ。余談だがメタルクローの火力は剣の王ザシアン<はりきり鉢巻アイアント<はがねのせいしん鉢巻ニャイキングとなる。特性により火力にかかる倍率が同じなのでこれは鉢巻のパワーがA種族値の差(170と109・110)を覆すことで起こっているものだ。持ち物って大事ですね。まあメタルクローは命中95なので結局採用しないんだが。余談にもほどがある。

確かに余談にもほどがあるのだが、このダメ計は重要なことを教えてくれる。大雑把にいえば先ほどのザシアンのメタルクローはA170の鉢巻一致威力50技と読みかえられ、つまりA170の鉢巻一致威力40技をバルジーナは乱数で耐える。ザシアンのAはブラックキュレムと並んでガラル最高であるため、特性で火力を上昇させられないポケモンが使うとき、または特性による火力倍率が1.5以下のポケモンがタイプ不一致で使うとき、威力40の物理技はバルジーナを確定で倒すことができない、という事実が導かれる。

これにより闘争心♀オノノクスのひっかく(不一致なので×)、キテルグマのたいあたり(特性で火力を上昇させられないので×)といった候補をダメ計せずとも却下できる。

さらにぱっと見で上位互換が存在するものを除くと、残った候補は

・鉢巻ちからもちホルードのたいあたり (83.6~98.6%)

・鉢巻テクニシャンチラチーノのはたく (85~100.9%)

となり確一にあと一歩届かない。「テクニシャン原種ペルシアンのひっかくいけるんじゃね!?」とウキウキしていたらチラチーノが出てきたときの三日天下感がすごかった。

 

物理がだめならPP35超えの唯一の特殊技であるかぜおこしだ!となったけれど、ガラル最強のかぜおこし使いがシンボラー(火力上昇特性なし、C103)な時点で色々と察してほしい。火炎玉などであらかじめ火傷にしてから眼鏡を持たせるという面倒な手順を踏んでさえ

・眼鏡熱暴走火傷フワライドのかぜおこし (90~106.3%)

と物理に比べて脆いはずのバルジーナの特殊耐久を突破できない。フワライド(C90)が特性で火力を1.5倍にしてこの有様である。いわんや闘争心♀ケンホロウ(C65)のかぜおこしをや。テクニシャンな風を起こせてCが割と高いポケモンがいたらワンチャンあったのだが…。

 

というわけで最後に残された希望はPP35でありながら威力60を誇るつばさでうつ。つばさでうつの火力を特性で上げられるのはアップリューとワシボンのみ(闘争心で火力上昇が見込めるケンホロウはつばさでうつを覚えない。なぜ?)で、共にはりきりのため考慮外。ウォーグルはつばさでうつ習得ポケモンの中で最もAが高く、さらに一致でつばさでうつを使える。HBV・B上昇補正バルジーナへのダメージは

・鉢巻ウォーグルのつばさでうつ (102.2~120.4%)

確定一発!

ウォーグルに次いで火力の高いつばさでうつを撃てるのはルチャブルなのだが

・鉢巻ルチャブルのつばさでうつ (84.5~99.5%)

確定二発。つまり…

ウォーグルは現ガラル地方において、Lv60の無振りバルジーナを一切の乱数要素なしにPP35以上の技でワンパンできる唯一のポケモンなのだ!

 

まとめと知見

・あらゆる無振りバルジーナLv60をなるべくPPの多い技で安定してワンパンしたい!となった場合、現ガラル環境ではウォーグルが最も有用である。

・現ガラル環境で最強のPP40技はテクニシャンカポエラーのこうそくスピン、最強のPP35物理技ははがねのせいしんニャイキングのメタルクロー、最強のPP35特殊技は熱暴走火傷フワライドのかぜおこしである。

・このようなPPの多い技を調べるときにはポケモンwikiのわざ一覧が有用である。

ケンホロウはつばさでうつを覚えない。

 

バルジーナを狩るのに最も適したポケモンが対となるウォーグルというのは面白い。まぁガラルの外にはもっと気軽にバルジーナを狩れる連中がゴロゴロいるんだけど。

アーケオスカイリューハッサムドンカラスムクホーク・ストライクといった強力なつばさでうつ使いが軒並みいない今だからこそ生まれたウォーグルの個性。みなさんもぜひウォーグルを使って色バルジーナを厳選しよう。私はまだ手に入れてません。

 

追記: 手に入れました。

追記: 鎧解禁後だとストライクが最強のつばさでうつ使いとなる。これは冠解禁後でも変わらないが、相手がいかく持ちならせいしんりょくカイリューも候補になるだろう。

*1:実は全国最強のこうそくスピナーもカポエラーである(ガラル外を見てもタイプ一致こうそくスピナーがパッチールドーブルのみという悲しいラインナップであるため)。

阿部共実「死に日々」数字回 各論1 「7759」の色彩について

「数字回」とは、阿部共実先生の不朽の名作である「死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々」通称「死に日々」の終盤(?)の三部作(?)「8304」「7759」「7291」のことである。まだ続きが出る可能性がなくもないので疑問符だらけになってしまう。

 

この記事では「数字回」のそれぞれについて、細かい表現などを探っていこうと思う。今回は私が個人的に最も好きな「7759」にスポットを当てる。

 

「8304」「7759」は単行本2巻に収録されており、「7291」は単行本未収録なので無料で読める。

mangacross.jp

 このうち「8304」については最高のレビューが存在するのでそちらを見ていただきたい。

minesweeper96.hatenablog.com

もし「死に日々」1・2巻を読んだことがないのであれば、悪いことは言わないので以下のネタバレ満載感想を見る前に今すぐ買って読んでほしい。この記事はアホみたいに長いが、記事だけ読んでも作品の魅力はアホみたいに伝わらない。買うのだ。「空が灰色だから」と「ちーちゃんはちょっと足りない」もだ。そしてできれば「死に日々」2巻を手に持って、適宜確認しながらこの記事を読んでいってほしい。以下のページ数表記は「死に日々」2巻のものである。

 

 

 

 

 

 

7759

「7759」の最初のページは「死に日々」2巻の表紙で、次のページは「もくじ」である。というのも、「死に日々」2巻の表紙は水色とピンクの薄い水玉模様をバックにした、右目がオレンジ、左目が青色で、それぞれに橘の姿が映った千夏。目次の背景は黒いバックに紫とオレンジ(オレンジの方が多い)の不規則な配置の水玉模様となっているのだが、これは「7759」の全体を貫く色彩体系と(一部除き)一致するのだ。

 

何のことやら、と思われても仕方ないので、まずは「8304」に登場する、色が直接言及されていたり、色を想起させるような表現が使われている物体や現象を、見つかるだけ全て抜き出してみよう。

灰色の町・青白く染まる・墨を混ぜたような雨・ねずみ色のシャッター・銀色の自転車・群青色の景色・真っ黒に染まる道路・信号機の赤や黄や青緑の灯り・アイボリーとブルーのエナメルバッグ・白いポロシャツ・紺色のロゴ・灰色の空・水色のひび割れ・青い影・緑色や薄焦げ茶色やミルク色の雑草・熱帯魚のようなビビッドイエローの軽自動車・黒い血管・空は青く青く焼き付いて・ 運動場はまるで乳色にうつって・砂や小石が信号のように小さくちかちかかがやいて・校舎はまるで銀のように明かりをおびて・階段は灰色で塗りつぶされて・教室はまるで水の中のように薄緑がゆらゆら反射して・ランドセルは赤くて黒くて・机は陽光と影で白く染まって黒く染まって・プールは赤紫色になって・塩素は鼠色になって・教科書は水色に笑って・先生は鉛色に盛り上がって・廊下は金色にこわくなって・うすい肌が少し褐色をおびている・雨で濡れた体毛が白くきらめいている

 怒涛の色彩表現である。これらの大半は生まれて8304日(≒23年)が経過した「けんちゃん」の独白であり、冒頭に登場する色の彩度の低さに気づけたりするわけだが、本題はそこではなくただ「色相に関して平等」ということである。「7759」の色彩表現は以下のようになっている。

今日の夕空は一面の紫に少しの橙を溶かしたようだった・すみれ色の人形キャンドル・眠る意識のようなききょう色したグレープゼリー・肌がいつにもまして白い・真っ赤な血の温度・加湿器はイエローしかないし・青紫の空に街路樹の秋が私達を祝福するように赤く黄色くぽつぽつと光ってるねえ・群青に染まる浜・ピンクとゴールドの香水・夏の朝日が木々の緑を余すことなく金色に燃やしているよ・千夏どうだいこの世界は いろんなものに目をかがやかせて 少し色の薄い瞳が陽光に照らされて爆発を起こしたオレンジ色の宇宙のように深いよ

 けんちゃん(大人)が色あざやかな注釈を入れる「8304」とは異なり、登場人物(特に千夏ファミリー)が自由に色を含んだ発言をしているせいで雑多な印象を受けるが、ここで注目したいのは「すみれ色の人形キャンドル」、そして「千夏どうだいこの世界は いろんなものに目をかがやかせて 少し色の薄い瞳が陽光に照らされて爆発を起こしたオレンジ色の宇宙のように深いよ」の二つの表現と、そこから見えてくる二項対立である。

すみれ色の人形キャンドル

「誕生日ケーキ」で画像検索してほしい。

誕生日ケーキ - Google 検索

もしもすみれ色の人形キャンドルが整然と20本ぶっ刺さったケーキが出てきたなら私の負けだ。本当にすまなかった。この記事は全ておじゃんだ。だが実際は、誕生日ケーキにすみれ色のキャンドル(だけ!)を立てることは少ない。ましてやすみれ色の人形キャンドルなどというホラーな物体を立てることはない。この他に「7759」の中で「人形」という言葉が出てくるのは、橘の台詞

こうやって人形のように静かに目をつむる顔を見てみると いっそう無邪気な子供のようですね

僕は人形のような人が好きだったんですよ 

 だけである。徹底的に言葉に気を使う漫画家の作品なので、ここに何らかの意図があると考えるのは邪推ではない。前者の言葉が発された時点で千夏はすでに死んでおり、橘もそれを分かって言っている。後者の「人形のような人」とはつまり死体である。「人形キャンドル」が死体を表している、としてよいのではないだろうか。そしてその人形キャンドルがすみれ色であることにも意味を見出すべきだろう。このことは覚えておいてほしい。

オレンジ色の宇宙

「宇宙」で画像検索(同前)

ビッグバン直後の宇宙はオレンジ色で描かれることが多く、そうであればこの表現に違和感はないが、

千夏どうだいこの世界は いろんなものに目をかがやかせて 少し色の薄い瞳が陽光に照らされて爆発を起こしたオレンジ色の宇宙のように深いよ

 これは千夏の親が、生まれたての千夏*1に語りかける場面である。千夏の親は世界に対してきわめて楽観的であり、世界を賞賛する際に宇宙に対して「オレンジ」という色を使ったことには特別な意味があるはずだ。

 

紫とオレンジ

紫とオレンジの対立は「7759」に頻出する。最初の一文からしてそうだ。

今日の夕空は一面の橙に少しの紫を溶かしたようだった

青紫の空に街路樹の秋が私達を祝福するように赤く黄色くぽつぽつと光ってるねえ

他の色についてこんな色彩の対立はないにも関わらずだ。さらに作中で、千夏(あるいは作者)による色の贔屓とでも言うべき事態が起こっている。上記のシーンで「私達」を祝福するのは青紫の空ではなく、赤く黄色く(混ぜればオレンジ(安直))光る街路樹だし、

窓を開けて金木犀の香りを招待したい

ブルーベリー大嫌いあっちいけ*2

群青に染まる浜、イエローの加湿器、色が明示されていないワインといった紫でもオレンジでもないものを考えなければ、明らかに千夏は紫よりオレンジを贔屓している。先の「すみれ色の人形キャンドル」「オレンジ色の宇宙」を考慮に入れれば、「7759」では紫が「悪いもの」、オレンジが「良いもの」を表しているのではないか、という仮説が得られる。

 

ここで死に日々2巻の目次に戻ろう。ここまで読んだあなたには、この紫とオレンジのデザインが「7759」のために作られたものに見えるだろう。ちなみに死に日々1巻の目次では紫色の水玉のみが描かれており、1巻より2巻の方がハッピーエンドが多い(一応)ことを示していると妄想してもよいし、なら目次は「7759」と関係ないんじゃねーかと憤慨してもよい。いずれにしろ表紙の千夏の瞳の色が青とオレンジの構造を示しているのだから。紫ではなく青(水色)というのが引っかかるが、そのぐらいの齟齬はこれからの考察で山ほど出てくるので気にしないでいただきたい。多分デザインの都合だ。

 

千夏先輩の死因について

「7759」で千夏は7759日の生涯を終えるわけだが、その死因は明らかでなく、「ヒーターのガス漏れ」という事故説・「千夏は自分の死体を誕生日プレゼントにした」という自殺説・「橘が夢を諦めきれずにゼリーに毒を入れた」という他殺説それぞれにもっともな理由*3が存在する。私はこの議論に終止符を打ちたい。あるいはもっとカオスにしたい。

 

p.138を見よう。

 

・・・と言われてもページ数の表記が省略されまくっていて難儀すると思うので、分かりやすく言うと

千夏どうだいこの世界は いろんなものに目をかがやかせて 少し色の薄い瞳が陽光に照らされて爆発を起こしたオレンジ色の宇宙のように深いよ

 のページである。このページは三段構成になっていて、それぞれの段の真ん中にはヒーター・薬の包装・ゼリーの容器が並列して描かれている。これが全てだ。私が提唱するのは事故と自殺と他殺が重なっちゃった説である。

調子の悪いヒーターはガス漏れを起こしたし、千夏は橘の死体愛好を知っていて自らの死体を誕生日プレゼントにしようと考えて睡眠薬の過剰摂取の類を行いそのことをすみれ色の人形キャンドルに込めて伝えたし、橘は毎日ゼリーに毒を仕込んでいた、という、ただそれだけの説である。それだけの説だが、事故説・自殺説・他殺説のいずれか一つを採用することによる矛盾を全て説明できると考えている。特に、一貫性を欠くようにも見える橘の行動にも全て説明がつくのが大きい。夢が叶った喜び、自分が先輩を殺したのだという後悔、すみれ色の人形キャンドルを見ての、理解者を得たのだというめいいっぱいの幸福感。うまい具合に橘の心情が浮かびあがる。また、千夏がケーキに毒を盛る動機がないので、橘の死因はヒーターだと分かるが、何が千夏の決定的な死因となったのかは不明で、わざとぼかしている感じがある。が、それは本題ではない。私にとってこの説の最大のメリット*4は、千夏の最終的な死因が何であれ、眠る意識のようなききょう色のゼリーに毒が入っていたことになることである。

紫とオレンジ(2)

こうなると、もはや紫とオレンジの対立は「悪いもの」「良いもの」よりもっと具体的で非対称なものになる。死体のような人形キャンドルや毒入りのゼリーを彩る紫は、「悪いもの」というよりも「死」を表していると考えた方が自然になるからである。ならオレンジは「生」を表しているのかということになるが、ここで「7759」における命あるいは世界の捉え方について考えておこう。

あなたが今からくる世界はパーティのようにたくさんの人やものであふれているんだよ 

 千夏の親*5は徹底的に世界を誉める。世界には楽しいことしかない、世界は深い、世界は美しい。世界はパーティのようで、だから楽しい。これが千夏の出生にして物語の最終盤で語られる世界の見方である。ここから引用して、オレンジを「パーティのような世界を生きること」と考えると、これからの話がしっくりくる。

 

千夏と橘は、パーティを抜け出した。死の隠喩ではなく、千夏の送別会の方の話である。このとき、

青紫の空に街路樹の秋が私達を祝福するように赤く黄色くぽつぽつと光ってるねえ

とあるように、 オレンジ色の世界は彼女らを祝福した。その理由は簡単で、

好きなときに歌い 好きなときにおどり 好きな人と おしゃべりしててもいい 好きな人を 見てるだけでもいい

もし疲れたら 隅で座ってもいい 休んでもいい 見なくてもいい 聞かなくてもいい 

と千夏の親が言うように、パーティのような世界には、歌いもおどりもせず好きな人とおしゃべりしたり、隅で座っていたりする権利が存在するからである。彼女らは正当な権利を行使したまでで、だから世界は彼女らを祝福した。一度目は。

彼女らが二度目に「パーティを抜け出す」こと=死を選んだときも、オレンジ=「パーティのような世界を生きること」は一応、手を差し伸べた。千夏が(オレンジ色の)金木犀の香りを招待しようと窓を開けていたら、少なくともヒーターの不調のせいで死ぬことはなかった。だがそうであっても千夏はケーキにすみれ色の人形キャンドルを立てて死を選んだし、橘はききょう色のゼリーに毒を入れて千夏を死に追いやった。自殺を選んだ千夏を、世界は救わなかった。その理由も、千夏の親が与えてくれる。千夏の親はパーティのような世界の自由さを語っていたが、パーティを抜け出す自由については触れていない*6。世界から抜け出すという掟破りを犯した千夏を世界は冷酷に見放した、というのが一つの分かりやすい答えである*7。これでほとんどの色彩表現の説明は果たしたつもりだ。最後に、二人の手にした幸福について考えよう。

 

幸せ

千夏と橘は、出会い、触れ合うことでともにオレンジ的な幸せを得た。一方で、橘が千夏に与えた「死体を愛する好きな人のために死ぬ喜び」、橘が得た「好きな人を殺してその死体を手にする喜び」、すみれ色のキャンドルを介して千夏が橘に与えた「死体を愛する自分のために好きな人が死んでくれる喜び」は、オレンジ的な幸せではない。「死」という紫そのものが絡んでいる以上、それは千夏の親が規定する「楽しいこと」から逸脱した、オレンジ的世界から見放されてやっと手に入る、紫的な幸せだ。千夏と橘は、橘だけでは手に入らないオレンジ色の幸せと、橘だけでも千夏だけでも手に入らない紫色の幸せの両方を、互いに与え合ったのだ。だから「死に日々」2巻の表紙で微笑む千夏の、オレンジと青の両目には、橘が映っている。それはあまりにも両極端で両立不可能な二つの幸せをもらった証である。その究極的な幸福こそが我々を「7759」に惹きつけるのではないだろうか。

 

おわりに

正直な話、『「7759」、つまりオレンジと紫で表された生と死の喜びの話なんだよな……』で結構な人に共感を得られた気がする。しかしせっかくだから無粋でも言語化してみるか、と筆を取った次第である。

この記事では「オレンジと紫の対立」という直感からくる理解を何とか論理的に導き出そうと、色彩表現の中にある違和感を出発点とし、いまだ議論の余地残る千夏の死因を強引に確定させてまで話を進めた。しかし大事なのはあくまでオレンジと紫という色ではなく、オレンジと紫で彩られた生と死の対立、そしてその対立を超越した二人の幸福である。

 

色々と偉そうなことを書いたが、そもそも土台となる「オレンジと紫の対立」すら危ういのが実情である。群青を紫でないとしておきながらブルーベリーを紫に含めたり、イエローをオレンジと区別しておきながら「赤く黄色く」をオレンジと解釈したりといった恣意的な読解がてんこ盛りなのだ。冒頭の一文だって、

今日の夕空は一面の紫に少しの橙を溶かしたようだった

 もし紫と橙が逆であれば、「オレンジ的世界の中に紫という死が侵食していっている表現だ、何という表現力か」と褒め称えただろう。しかし実際はこの有様で、解釈が全くできなくなったためオレンジと紫の対立を示すのに利用だけしてすっ飛ばした。とまあお粗末な論理に支えられたこの記事だが、それでも結論のもっともらしささえ伝われば嬉しい。皆さんのより論理的な解釈を期待する。

*1:背景が白いことと話の内容から推測。次のシーンでは生まれる前の千夏に親が語りかけており、こちらは背景が黒い

*2:この台詞は構造がとりにくく、「大嫌いあっちいけ」がブルーベリーに向けたものだという確信は持てない

*3:これらの説の主な根拠は、事故説「ヒーターの調子の悪さが執拗に描写されていることと、橘がケーキを食べた以外何もしていないのに死んでいること」、自殺説「すみれ色のキャンドルという死体を連想させるものをわざわざ誕生日ケーキに立てていること」、他殺説「『僕はつい我慢できなくなっちゃって』『人に迷惑をかけないことが僕の人間としての唯一の矜持だったのに』という橘の台詞と、千夏の体調が悪くなっていること」である

*4:Q. 自説に対するメリットとデメリットを勘案して不確定要素を断定するって考察としてどうなんですか?——A. はい。

*5:余談だが、「おとうさんおかあさんもっともっと」のコマ以降の時間では千夏の両親はともに登場しない。さらに時間的にその直後となる回想での台詞が妙に死を連想させるものであるため、このとき両親は亡くなっているというぼんやりとした確信がある(妄想の域を出ないけど)。その場合、「ブルーベリー大嫌いあっちいけ」は幼い千夏の死に対する忌避感を表しているということになる

*6:まあ生まれてもいない我が子に「いつでも死んでいいんだよ」なんて言う親はなかなかいないとは思うし、当然といえば当然なのだが

*7:千夏の親は言っていないが、この世には世界から抜け出す権利が存在しており、それを行使した千夏を世界は暖かく見守った、という考え方もできるが、そうするとオレンジ・紫の対立を用意した意味がなくなってしまう。死は生の一部でなく、対立する概念だと今は捉えるべきだろう