具体の具、実体の実

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【ポケカ】土地・エネルギー・ブンドド

前回の記事が好評でした。ありがとうございます。たくさんの反応をいただいてホクホクでした。

guandmi.hatenablog.jp

 

気を良くしたのでさて次は新弾の話でもしようか、それともいったんポケカ全部の歴史の中から好きなカードでも紹介しようか……と考えていたのだけど、まずはポケカのフレーバー面の味わい方について、自分の考えを置いておいた方がいい気がしてきた。

 

 

はじめに

まず初めに述べておかないといけないことだが、ポケカのフレーバーを楽しむのは難しい。というより、楽しめるカードが少ない。フレーバーテキストのあるべき場所に図鑑説明が鎮座しているせいで大抵の進化前なんかは特徴のない技名一つ(しかもバニラ技)しか情報量がないこともしょっちゅうで、特にLEGENDでのリセット以降は活躍させる気のないカードのテキストに注がれる労力が明らかに減ってきている。

では環境に入れるような強力なカードは?……残念ながら、環境の主役となることを期待して作られるカードとそのポケモンの関連性は、かなり長い間低くあり続けてきた。完全に憶測だが、おそらく「環境に入れたいポケモンを決める」「環境に入れたい性能を決める」を個別に行ってからがっちゃんこするパターンが多いのだろう。トップダウン(コンセプトを決めてから性能を決める)、ボトムアップ(性能を決めてからコンセプトを決める)双方を同時に行っていたら齟齬が出るのは当然である。その効果も完全に新規であることはほぼなく、過去に実績を残した強力な効果の中から制御のきくものを選んで再利用していることが多い。

 

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鳴り物入りで登場したバドレックス達。「ガイスト」と場のエネ数参照、「ランス」と可変数エネトラッシュに関連性が見当たらない。『エンペラーライド』に関してはてょわわわ〜んしてベンチを操っている説を(一人で)提唱している

 

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ではバドレックスの個性は全く表現されていないかというと、それもまた違う。アストラルビット・ブリザードランスの性能は原作における「ただ威力が高いだけの技」に留まらず、五つの霊魂/一つの氷の槍を放つという対比的なエフェクトに即した良いアレンジがなされている。はくばバドレックスVには槍の先端にキラリと光る加工がされているが、これは原作におけるブリザードランスのエフェクトの再現である。ただ実際のゲームプレイでこれらの技が使用される頻度は、(アストラルビットが一部のデッキの人権を奪う程度に強い技であることを考慮しても)VMAXのものと比べて極めて低いだろう。使われづらい技、性能に関係のない加工だからこそ凝ったことが許されているのだ、という逆説を感じさせる

 

そういうわけで、ポケモンをよく知らない人に「ポケカのフレーバーを一緒に楽しもうぜ!」とは中々言えない。まともにフレーバーを味わえるカード自体、ごく稀にしか登場しないのだ。が、それでもポケモンというコンテンツの強さを抜きにして、ポケカ特有のフレーバー的魅力を挙げるとしたら、その一つに「エネルギーカードの物理的動き」があると思っている。

 

土地カードの活かし方

回り道になるが、ポケカの兄貴分に当たるマジック: ザ・ギャザリングの話をしたい。マジック: ザ・ギャザリングがポケカのウン十倍フレーバーに気を遣ってデザインされているゲームであることを前提にした上で、ポケカのフレーバー的長所を紹介する…というのがこの記事の趣旨である。

 

TCGの祖であるマジック: ザ・ギャザリング(以下MTG)では、呪文や能力を使うために必要なコスト、「マナ」を支払うために「土地カード」を1ターンに1枚設置できる。ポケカも似たようなシステムとしてエネルギーカードを採用しているが、カードを使うためのリソースにしかならない専用のカードをデッキに混ぜて使う、というのはすっかり古くなってしまった仕組みだ。引きすぎたり、引かなさすぎたりすることで事故が誘発する。もちろん土地事故をなくした後発のタイトルであっても別の要因で事故は起こるし、そもそも憎まれがちな土地事故だが、最近──特に、強力なサーチカードや、デッキの外部から特定のカードを唱えられる危険なメカニズム「相棒」と、それらが引き起こす再現性の高まりについての議論が盛り上がって以降──土地事故は適度なランダム性をもたらすものとして、そこそこの再評価を受けていたりもする。もちろん不快なものではあるし、MTGアリーナ(MTGのアプリ版)で土地を引けなかった相手が3、4ターン目で投了する*1のを見るたびに「どうにかしろよこの欠陥システム…」とは思うのだけど。

このようにMTGをプレイする上で重要な要素である土地だが、フレーバー上での働きも見逃してはならない。土地がカードとして存在し、ゲーム上重要な意味を持つからこそ、土地が出るたびに何かする「上陸」、デッキトップをめくって土地なら手札に加え、そうでないなら自身が強化される「探検」といった能力が生まれる。「上陸」は大地そのものが躍動する次元、ゼンディカーにおいて地形を活かして戦う野生生物がよく持っている能力であり、ポケカで無理やり例えるとフレーバー的にはとちかんバチンキーに近い。

 

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刷られた(再録された)年とぱっと見のシルエットと色とフレーバーの一部分以外、全部違う

 

システム的に上陸に相当する、エネルギーをつけて誘発する特性はポケカだとたまに登場するが、なにぶんエネルギーの実態が分かりにくいので『しぜんかいふく』のように時間・ターン経過を表す目印にしたり『ほのおのからだ』『みずのベール』のようにつけるエネルギーのタイプを指定した上でそのタイプのイメージを借用したりといった工夫を加えている。このへんを掘り始めると「みずましヌメラは実質《硬鎧の大群》」「はっこうえきツボツボの上陸1ドロー狂いすぎでしょ」みたいな話が永遠に続くのでここまでにしておく。

 

土地というシステムの美しい活用法は土地をテーマとするゼンディカー外の方にむしろ目立つと思っていて、個人的には《航海の神、コシマ》が好きだ。

 

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コシマは北欧神話・バイキング・メタルをモチーフとする次元、カルドハイムに住まう神の一柱で、この次元の神は元ネタ通りかなり人間に近い。破壊不能などの神らしい能力を持たない一方、こちらに特に注文をつけたりせず素直に戦ってくれる。

 

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素直に戦ってくれない別次元の神たち。信心が足りないと顕現できなかったり、力を示さないと認めてもらえなかったり。

 

コシマを従えるプレイヤーは、ターンの始めに彼女を追放──旅に送り出すことができる。追放領域はポケカでいうところのロストゾーンなのだが、それよりずっと多様な能力に利用される万能な領域だ。

コシマが旅に出ている間、プレイヤーが土地(青のデッキだろうからそれが《島》であることも多いはずだ)を置くとコシマはその土地を航海し、経験の証として「航海カウンター」を得る。ある程度旅をさせたところで、プレイヤーはコシマを呼び戻す。するとコシマは「航海カウンター」の数に応じた旅の中での自身の成長(+1/+1カウンター)と共に帰ってきて、旅の中で得た知識(ドロー)をプレイヤーに与えてくれる。完璧なフレーバーだ。

カルドハイムの神は両面カードになっており、裏面にはその神に関連するものがカード化されている。コシマの裏面はクリーチャーを搭乗させて使う、機体《領界船》で、機体の攻撃が相手プレイヤーに通ると相手のライブラリーを略奪する能力を持つ。呪文は略奪しても使えないが、土地カードは自分のものとして使うことができる。要は相手の土地に侵攻できるわけだ。

 

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相手のカードを使うのは盗み・略奪のポピュラーな表現だ。一番右は《領界船》と同じく機体で、より直接的にバイキングの船を元ネタにしており、コモンにするため複雑さを削って土地を探すのは自分のライブラリーとなっている

 

これはデュエマのように呪文やクリーチャーがマナの出所を兼ねていたり、ハースストーンのようにマナが自動で溜まるシステムだと困難な表現であり、古臭いシステムの恩恵といえる。もちろん、システムが古いほどフレーバーが芳醇になるという訳でもない。デュエマの自然文明は敵を自然に還すことを示唆する、マナゾーンに置くことでの除去を有するが、MTGではクリーチャーカードを土地として設置できないため、似たようなことをすると「このカードがついているものはこういう土地になり云々」という簡便でないテキストや「このクリーチャーは流刑されたがその先で土地を見つけた」という表現にするしかない。差異があるというだけの話だ。そして差異があるからこそ様々なゲームを比較することに意味が生まれる。そして楽しい。

 

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ゲーム上の損得が似ていてもカードの挙動と表現が異なる

 

エネルギーカードの活かし方

ここでこの《ゴルダック》を見てほしい。

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ゴルダックの『およぐ』はSMでも登場しており、ゴルダック以外に『およぐ』を持つポケモンは登場していない。地味ながらもゴルダックの代名詞ともいえる技であり、一つのポケモンを背負うに相応しく、相手の場に存在する水を伝って敵陣の奥深くに攻撃する、とてもフレーバーに富んだ技で……

 

……はい。MTGを知っている方ならピンと来ただろう。この技、全くオリジナルではない。MTGの「島渡り」そのまんまである。

「島渡り」は相手が土地の種類の一つ「島」を置いていると相手のクリーチャーに攻撃を阻まれることなく攻撃を通すことができる能力であり、土地の種類に合わせて様々な渡り能力が存在する。海を知り尽くしたマーフォークなら島渡り、森の木々に身を隠す小動物なら森渡り……といったように、それぞれの長所を活かして様々な土地を通り、妨害をかわして対戦相手のところに辿り着くのだ。MTGの最初期から存在し、フレーバーもしっかりした能力だが、相手のライフを0にすることで勝利するMTGにおいてホイホイ相手に攻撃が通るのは単純に強い一方で、逆に相手が対応する土地を使わないデッキだと全くの無意味になる…という極端さから収録されなくなり、すでにスタンダードに登場させない宣言から6年が経過している。

SMのゴルダックの『およぐ』は無色3エネ90ダメージであるため渡り能力のようなことにはなっていないが、もしこれがより実用的なカードの持つ、有色のエネ要求で、ベンチを呼ぶ手段の乏しい環境で、『ベンチバリア』を貫通する*2、《デデンネGX》などを倒せるダメージの技であったなら…メタゲームの範疇を超えてとても不毛なことになっていた可能性はあるだろう。特定の相手に対してだけ勝利に直接近づくとはそういうことなのだ。不毛なことにならないよう実用性を抑えたとも言える。

 

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スタンダードに加わらない特別な立ち位置のセットならちゃんと出てくる。かつての凶悪カード《リシャーダの港》のリメイクであることも含め、古参プレイヤーへの目配せに満ちている

 

『およぐ』とその元ネタ「島渡り」、どちらがよりフレーバー的に納得できるかは決めがたい。「水の中を泳ぐ」「島の周りを泳ぐ」どちらもなるほどとしか言いようがない。一方で設定を突き詰めるなら別に水エネルギーって水そのものではなくてポケモンの成長を表す目印のようなもののはずだしその中を泳ぐのってちょっと変、でもそれを言うならMTGの土地は本当にその場に切り出してくるわけではなくてあくまで魔法的な繋がりによって遠くの次元の土地からマナを引き出しているはずでそこをクリーチャーが通るのはおかしい……

 

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「沸騰による水の破壊」。ポケカMTGも、古いシステム故に変な物体が単独で重要カードになっており、それ故たまにフレーバーが面白いことになる、そこに何の違いもなさそうだが…?

 

しかし確実に言えることがある。エネルギーカードには草や炎や水などが描かれていて、草や炎や水などは現実世界でよく移動する。様々な次元の風景が楽しめる土地カードと異なり、分かりやすさを優先してかタイプのシンボルが大きく描かれただけのエネルギーカードだが、これを活かして草や炎や水などの移動を表現してきた歴史がポケカにはある。

 

ポケカ最初の拡張パックに収録されたカントー御三家の最終進化は、エネルギーに関する特殊能力を持っている。この統一性は性能先行のボトムアップ・デザインだろう。フシギバナは『エナジートランス』で草エネルギーを移動させ、リザードンは『エナジーバーン』で全てのエネルギーを炎エネルギーとして扱い、カメックスは『あまごい』で無尽蔵に水エネルギーを供給する。なぜ原作ゲームに天気の概念がない時代に、他2つと明らかな雰囲気の差をつけてまで、カメックスの特殊能力が『あまごい』と名付けられたのか?それは手札の水エネルギーを次々と場のポケモンにつけていく様子が、水の雫が描かれた紙を上から下に動かしていく様子が、雨に似ていたからに違いない、と思う。だからこそ後に登場するオーダイルの「エネルギーをトラッシュに落としてから山札に戻して攻撃する」戦法が『どしゃぶり』『ぎゃくりゅう』と命名されたのだ。

 

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オーダイルと雨ってあんまり関係ないはずなのだが。『あまごい』はリメイクの際にデメリットの追加と共に名前が無機質になったが、それでもちょっと引っ張られている

 

トロピウスが初登場で持った技『いやしのみ』はコンセプト先行のトップダウン・デザインに見える。トロピウスの首のフルーツをベンチポケモンに渡して回復させる技をデザインするとき、なぜエネルギーを付け替える効果をつけたか?実用性以上に、草エネルギーに植物(……の葉。若干惜しい)が描かれているからだろう。

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ポケカはよい子のゲームであり、フレーバーが軽視されがちなゲームだ。トラッシュからエネルギーを山札に戻して攻撃する効果は、エネルギーのトラッシュを多く要求し、トラッシュにエネルギーが溜まりやすい炎タイプに多くなった(『だいえんじょう』『さかまくほのお』のように名付けは頑張っているが、『ぎゃくりゅう』のシンプルさには敵わない)。トロピウスも、今ではエネルギーの付け替えという複雑さを増大させるオプションを伴うことなく回復を行っている。わざわざ古いカードを引っ張り出してきたのはそういうことなのである。

そもそもこういった表現は超・悪・フェアリーあたりの実体がない存在であるタイプでは不可能だし、頻繁に登場するものでもない。最後に「なるほど!」と思えたのは『よどみにしずめる』ブルンゲルだろうか。『ぎゃくりゅう』と違ってエネルギーが移動しないところが絶妙に怖さを演出している。とはいえエネルギーカードの物理的動きとフレーバーとの噛み合いという趣旨からは少し外れる気もする。動いてないし。

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ポケモンもトレーナーも道具も、ポケモン本編に登場するものが一切描かれていない謎のカードをデッキに大量に混ぜて使うという、古く粗いシステムが、ごくまれに「ブンドド」的な魅力を放つ。本当に、本当に希少な輝きだが、こういうのを見るとポケカ贔屓の私はすごく嬉しくなってしまうのだ。皆さんも新弾のカードリストを見るときなど、こういった表現がされうることを頭に入れておくと、カードの魅力に世界で初めて気づけた人間になり、ニチャリと笑えるかもしれない。

 

 

*1:相手の顔が見えないと投了のハードルが下がる

*2:渡り能力は通常のベンチ狙撃に近い能力である『飛行』を止められる『到達』でも止まらない